ビルが古くなったら、建設業者等が作成する長期修繕計画表だけでは足りません。ビル所有者は、そこからビル所有者自身で分散修繕計画を作成する必要があります。分散修繕計画は賃貸計画と資金計画と工事計画の総合です。期間は30年をお勧めしています。
分散修繕計画は、ビルを赤字にしないシンプルビルのあり方を見つけるツールであり、かつそれを業者に伝え、シンプルビルのためのシンプル工事をしてもらうためのコミュニケーションツールです。
分散修繕計画は、まず作成を通してこれらを確認して一つのビルの存続モデルを作ります。もちろん実際には社会経済環境も変化し、賃貸や工事ではまずその通りにはいかないことが普通です。ビル所有者として新しいアイデアが浮かぶこともあります。賃貸や工事、その他何かの都度、計画を見直し、再作成を繰り返します。そうして常に30年の分散修繕計画を作成して30年後のシンプルビルを目指しているうちに、気がついたら築50年の壁はもちろん、築100年を過ぎているでしょう。
分散修繕計画は30年の賃貸計画と資金計画と工事計画の総合です。パソコンの表計算ソフトで手軽に作成と更新ができます。
分散修繕計画は、全てが2つの意味があります。ビルの経営数字と現実の賃貸方針及び建物の状態です。分散修繕計画では、常にこの両方を確認します。
分散修繕計画の作成は、最初に賃貸計画を作成して、次に資金計画、工事計画を作成してそれぞれ重ねる、とはいきません。なぜならば30年後の賃貸は、それまで行う建物設備機能更新等工事や賃貸対策工事の結果だからです。賃貸、資金、工事はお互いに関係しあっています。
分散修繕計画の作成で重要な概念が、「シナリオ」です。
ビルがいつ何の工事をして、いつ退去がありどのような賃貸をして・・・というビルの重要な出来事の時間的な流れが「シナリオ」です。映画やお芝居のシナリオと同じです。1つの分散修繕計画は、何らかのビルの「シナリオ」を表現しています。
分散修繕計画の作成では、1つの分散修繕計画を1つのシナリオに基づいて作成します。もちろんビルのテナントがいつ退去するか、いつ頃どの建物設備機能が本当に経年劣化で更新が必要になるかは、予測はできないから全て想定です。想定の「シナリオ」をたくさん考え分散修繕計画の作成を通して対応を考えておくことで、経験にかわる勘が養われ、大きな失敗をしなくなります。
賃貸計画は、今後のどのような賃貸方針でどの程度の賃料収入を見込めるのかを描きます。賃貸の動向は賃貸マーケットの影響を受けるため、賃貸計画には賃貸マーケティングのスキルが必須です。
将来の賃料収入は、将来の地域賃貸マーケットの水準とその時のその中での自物件のポジションで決まります。
将来の賃貸マーケットの中での自物件のポジションは、何もしなければ経年と共に低下していくのが一般です。ただし低下の度合いは、物件の「オンリーワン」度によって異なります。立地等に強い強みのあるオンリーワン物件はそれほど低下しません。
そこで建物設備機能の更新及び共用部リフォームや内装工事等をいつ頃どのように加えることで、なるべく賃貸マーケット内ポジションの経年低下の程度をゆるやかにしたり、賃料減少を食い止めたりできるかを、賃貸計画で具体的に検討をします。分散修繕計画での検討は経済的な費用対効果です。ただの机上の空論は数字合わせで終わりですが、分散修繕計画では、ここでターゲットテナントの理解が十分にできており、具体的な共用部改装等が思い浮かべられていることが重要です。
また将来の地域賃貸マーケット見込みが厳しい場合には、
等可能性を検討します。
資金計画は、分散修繕の予算計画です。資金計画は、賃貸計画と工事計画のすり合わせです。
賃貸計画から作る資金計画は、賃料収入から管理費や火災保険、公租公課を差し引き、借入金返済がある場合は借入金返済も差し引き、その残りから取り分も差し引いた残りの金額から毎年確保できる金額です。安定のために毎年定額確保できることが望ましいです。また既に準備してある準備金や別に補填できる予算がある場合にはここに組み入れます。
一方で工事計画から作る資金計画とは、建物設備機能機能と賃貸の安定維持のために必要な工事予算の合計です。
工事計画は分散修繕のメインです。ベースは建設業者等が作成する長期修繕計画表です。そこから
といった調整を、資金計画及び賃貸計画も見ながら、各安全及び安定を考慮して、ビル所有者が検討します。長期修繕計画表がない場合は、現在の建物設備機能リストを作成します。
分散修繕が目指す工事計画の例は、次の通りです。次の工事に向けて資金を準備してから工事をするので赤字を作りません。
築古は賃料収入が減少するため、減少する将来の賃料収入に合わせたシンプルビルにゆっくり移行することが、分散修繕で赤字を作らない秘訣です。
ただもちろんビルとして機能し賃貸で選ばれなければ話にならないため、現在の建物設備機能状態と同時に、賃貸マーケットでターゲットテナントに望む賃料で選ばれるためのビルのあり方も十分に検討をして、何を残すか、何を断捨離するか、何を変えるかを検討します。
といった断捨離を組み合わせて行い、将来のシンプルビルを見つけます。
ビル所有者にとって欠かせない「建物に対する責任、テナントに対する責任、家族に対する責任」を保つために、4つの安全をなるべく常に保てるような「工事の分散」を見つけることは、分散修繕計画を作成する一つの重要な目的です。
とはいえ「事故を起こさない、建物設備機能を維持する、賃貸を維持する」を手厚くすると費用がかかりすぎ赤字になるという安全安心と費用のジレンマがあります。赤字を作らず、極力費用を節約しつつ、「事故を起こさない、建物設備機能を維持する、賃貸を維持する」の水準を、築古ビル所有者は決める必要があります。
費用を抑えるための方法には、例えば次の方法があります。
分散修繕は、「賃貸の安定、建物設備機能状態の安定、経営の安定」を維持できることが、他の方法にはない魅力です。この魅力を生かさない手はありません。
現在のビルから30年の後のシンプルビルへは、AからBへと急に変化するのではなく、なるべく大きな変化をさけてゆっくり移行できるように、工事計画はもちろんのこと、賃貸計画及び資金計画も安定できるように、工事計画で工事を分散させます。
一定時期に建物設備機能状態の悪化が重なってしまう場合には、前倒しや後ろ倒し、もしくは更に部分分散をして必要な対応から行うといった上級分散テクニックがあります。
分散修繕計画は、机上の空論では意味がありません。築古賃貸とシンプル工事のメソッドを磨くにつれ、 計画はより安定して実現できる計画になるでしょう。
結局のところ分散修繕計画は、作成し見直し再作成して賃貸工事を行い再作成し・・・の終わりのない繰り返しです。そうしているうちに気がついたら築50年の壁を越えて100年さえも過ぎて長く維持ができるでしょう。