築30年以上中小ビル賃貸経営者/後継者のための

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低予算で現在建物を資産として100年超延命する分散修繕

リノベーションなら数億円。分散修繕なら30 年でもリノベーションより一桁少ない低予算で将来のリスクを高めず使用者納得度も損なわなず、100年200年使用ができる


欧米や他国ではどうして、ビルやマンション、戸建て住宅が50年100年を過ぎても長く使用できるのか?理由は、所有者が、建物の延命に必要な工事を行うからです。ただし、大がかりなリフォームや一棟リノベーション工事のような高額手法は、普通の個人は滅多に手を出しません。 大資本や富裕層ではない普通の住宅や建物所有者達は、建物の使用を続けながら、建物の資産価値を失わないよう、建物の延命に必要な工事を、低予算で将来のリスクを高めず使用者納得度も損なわない分散修繕で、行っています。そうして建物は築50年はおろか築100年築200年を過ぎても、使用の利益を産む資産として大切に維持され、子供の代、孫の代、その先の代へとその使用利益が引き継がれます。この分散修繕は、もちろん日本の建物でも同じです。私達日本人も、既に人口激減時代、つまり昭和の建替え投資成長モデルが通用しない時代です。つまり既に分散修繕が必要な時代にいます。そこでここでは、鉄筋コンクリート造等ビルを例に分散修繕の考え方取り組み方をご紹介をしますが、ビル・マンション・戸建て住宅といった用途に関係なく、考え方は全ての建物に共通です。


コンテンツ

Ⅰ 分散修繕とは
Ⅱ 30年分散修繕計画作成の準備
Ⅲ 30年分散修繕計画の作成
■ 相見積もりは厳禁
Ⅳ 主要建物設備機能の要点

Ⅰ分散修繕とは

分散修繕は、建物の延命に必要な工事取り組みの方法の1つです。建物の使用も継続しながら、リノベーションや大規模改修工事と比べて、30年でも一桁少ない金額で建物の延命ができます。だから、ビルの本場ヨーロッパや世界中の建物所有者は、ビルであれマンションであれ戸建て住宅であれ、築50年でも築100年でも築200年でも、長く使用が続けられているのです。 分散修繕は、日本の建物でももちろん実現できます。特別な専門知識も必要ありません。ただ、分散修繕は、建物を資産として延命する方法です。だから正しい建物資産観、資産の工事である資本的支出工事、資産のベスト利益を考える建物アセットマネジメントの考え方をざっと理解しておく必要があります。日本は従来、修繕工事と管理(プロパティマネジメント)の考え方しかありませんでした。だからここは理解を学ぶ必要があります。ただそれだけで、現在建物が負債にならずに、使用利益を産み続けるのだから、お安いものでしょう。それから、私達日本人が、分散修繕にどう取り組む事ができるのか、をご紹介します。

1.1 分散修繕は建物を資産として延命する方法

分散修繕は、個人が、中小ビル・マンション・戸建て住宅といった所有する建物を、建物の使用を続けながら、安定した使用の利益を産む資産として使用続けるための、建物工事の取り組み方法です。

11.11 分散修繕は、単なる建物延命の方法ではない
分散修繕の理解で重要な事は、単なる建物延命ではないという事です。建物の延命であれば、建築の分野です。既にリノベーション・大規模改修工事・建物再生工事といった、ソリューションが揃っています。ただ一般には、高額でなかなか手が出せません。

11.12 分散修繕は、所有者が、建物を資産として延命する方法
分散修繕は、建物所有者が、建物を資産として延命する方法です。この建物と建物資産の違いは、次でもっと詳しくみますが、建物を資産として延命するとは、建物の使用利益が続く事です。 つまり、実際30年でもリノベーショより1桁少ない低予算で、50年はおろか、100年でも200年でも建物の使用を続けられるという事です。

11.13 日本の建物が短命の理由は、建物資産延命の方法を知らなかったか
現在の日本の建物が短命の理由は、建物を資産して延命する方法を知らなかったから以外の理由はありません。地震国だから、は建物寿命とは関係ありません。地震国は日本だけではありません。他の地震国では、倒壊建物は手抜き建築等個別に検討され、一律で建物寿命とは考えません。旧耐震基準建築や既存不適格建物も、一律に問題があるのではなく、個別に判断されるべき問題であり、耐震補強技術もあります。

11.14 分散修繕は、なぜ建物を資産として低予算で延命できるのか?
分散修繕には、低予算で建物延命工事ができるような特別な修繕技術があるわけではありません。分散修繕の基本は、建物資産所有者が、必要な工事及び工事内容を厳選し、工事時期をよく考え、工事で無駄遣いをしない事です。これはいわゆる「値切る」とは違います。 建物所有者が、所有建物からベストな利益を得続ける事を考えると、自然になるべく無駄な工事をせずに、建物を長く延命続ける事になるのです。だから必要なのは、その考え方を学ぶだけです。

11.15 そもそもなぜ建物を延命すべきなのか?
ただそもそも、古い建物を延命しても、本当に価値があるのか?の疑問が日本人にはあります。古い建物は使い勝手も良くありません。修繕費もかかります。それでも世界中で建物延命が選択されている理由は、それが子孫に利益だからです。分散修繕は、建物資産を子孫に受け継ぎ、その使用利益を子孫も得られるようにする方法です。

確かに新築は使い勝手が良い。10の賃料がついても、1の費用と5の建替え投資回収(借入金返済)がでは実質の利益は4です。また20年して賃料が6になれば、もう利益は残りません。築古建物は賃料が5かもしれません。1の費用と毎年1の建物延命予算が必要でも、安定した3の利益が続きます。

私達日本人も、現在は既に人口激減寿命激減時代にいます。投資が難しい時代です。この難しい時代に、安定した3の利益を、子供の代、孫の代と残せば、より難しい時代に生きる子供や孫の世代も、その使用利益を享受できます。現在建物を50年100年200年と延命続ける事は、その建物の使用利益を、子供の代、孫の代、その先の代へと先送りしていく事に他なりません。それがどれだけ有難い事か、想像できますでしょうか?

現在建物の延命すべき理由は、それが私達が次世代やその先の後世に資産を残す唯一の道です。

1.2 建物と建物資産の理解

分散修繕の理解の前に、まず建物の延命を考えるにあたって欠かせない、建物と建物資産の理解を確かめておきます。要約すると、建物という資産は、1棟/1軒の物ですが、実際の建物という物は、建物躯体と多くの建物設備機能の集合です。

1.21 建物とは建物は建物躯体と多くの建物設備機能の集合体
建物は物です。所有者や不動産、建設業者も建物は1棟、1軒、といった建物単位で扱います。kけれども実態の建物は、建物躯体と多くの建物設備機能の集合体です。

建物は箱物とも言われますが、箱では使用ができません。多くの建物設備機能が機能する事で、建物の使用ができます。ちょうど一人の人間が、多数の臓器や血管、皮膚等が機能して、生きているのと同じです。そして建物の場合、そこに何の建物設備機能があるか、必要かは、1棟1件、一人一人の所有者によって違います。

1.22 建物寿命とはどういう状態か
すると日本で言われる建物の老朽化、建物寿命とは何か? それは、建物を構成する建物設備機能の経年劣化が積み重なった状態です。 建物躯体は丈夫です。鉄筋コンクリート造建物では、コンクリート寿命が言われますが、通常は、塗装もしくはタイルで保護されています。保護機能を維持する限り、そうそうには劣化しません。ただし建物を構成する多くの建物設備機能の各々は、よりライフサイクルが短く、40年ともなると、かなり経年劣化が進行します。とはいえ、ある日突然全ての建物設備機能が経年劣化で機能しなくなる訳ではありません。またある日突然、建物が倒壊する事も・・・普通に建築基準法を守って建てられている建物であれば・・・あり得ません。各建物設備機能の経年劣化が積み重なり、悪化した状態を、建物の老朽化といいます。そこで建物を諦めると、建物寿命と言います。

1.23 建物延命とは何か
では、建物の延命とは何か?答えは明確です。1棟1軒の建物は、建物躯体と多くの建物設備機能の集合体です。だから、経年劣化した部分を新規交換(リニューアル)する事で、建物は延命できます。 人間でいえば、劣化した臓器や皮膚を交換して、生き続けるような物です。どのような建物であれ、延命しようと思えば延命ができます。建物が寿命になるか延命するかは、建物所有者の選択です。


1.24 建物延命の方法
建物の延命には、2つの方法があります。 1つは、ある時点で。1棟1軒の建物を丸ごと、建物設備機能を新規交換(リニューアル)する方法です。いわゆ大型リフォーム、リノベーション、大規模改修工事、再生工事です。人間でいえば80代90代の人が、一気に20代に若えろうという方法です。ビフォアアフターの効果は劇的ですが、建物を空にしなければいけない事が多く、何より費用が超高額の投資となり一般には難しい手法です。 もう1つは、経年劣化した部分の建物設備機能を、必要に応じて、個別に新規交換(リニューアル)する方法です。人間でいえば、60代70代といった成熟した年齢で、衰えた部分だけを交換して長く生きる方法です。こちらは、従来でも壊れたら工事式として、実践している人も少なくないでしょう。効果は目で見えない事もありますが、建物の使用を続ける事ができ、一度の高額費用も発生しません。
どれを選ぶのは、建物所有者です。

1.25 建物は物だが所有者にとっては資産でなければ延命ができない
問題は、建物は物だけれど、所有者にとっては、建物は資産だという事です。 建物という資産には、次の次の建物資産の3面性があります。

1)権利面・・完全所有権であれば問題ありませんが、共有や相続に問題がある場合は、対応が必要です。
2)物面・・・・建物資産は物の建物ありきです。ところが物は経年劣化していきます。そこい対応が必要になります。
3)数字面・・・建物が資産であるとは、利益(数字)を産む状態です。建物延命工事費用(数字)を上手に使い、負債(数字)にしないようにしなければいけません。
ちなみに資産ではない状態とは、負債です。

1.26 所有者にとっては建物は資産でなければ延命ができない
つまり所有者にとっては、建物は資産でなければ延命ができないのです。この建物には、延命工事のお金をかける価値(数字)がない=お金をかけても負債になる、延命工事が高額すぎる (数字)=負債を作る、と所有者が考えると、延命されずに寿命になる訳です。 つまり古い建物が寿命か延命かは、建物所有者が決めていますが、その際の判断基準は、建物が資産であり続けるか、負債になるか、なのです。

1.27 建物資産は、土地と一体の資産
この建物資産は、土地と一体で土地の価値を実現する資産です。日本人は土地こそ資産と考えますが、土地はそれだけでは何の利益も生みません。現在では市街地の土地の価格も、土地の上の建物の収益価値で評価されます。(収益還元法)。つまり建物の資産価値が大きければ、土地の価値も大きくなるのです。 昭和の地価右肩上がり時代は、確かに(需要が増えて)土地の価値が上がるから、土地ありきの考えもできました。土地の価値が上がった理由は、需要が爆増したからです。一方で人口激減時代とは、需要が激減する時代です。土地の価値は上がる地域と下がる地域と二極化します。このような時代に、土地の上の建物を維持できなくなれば、建替えは出来ず、廃墟/AKIYA地として土地ごと価値を失います。(もしくは撤去費用負担がかかります。)ところがそのような時代でも、土地の上の建物を低予算で延命し、使用続け、使用の利益を産み続ければ、近隣の土地の売買価格に関わらず、所有者にとってはその土地と建物は、使用利益を産む価値ある資産であり続けるのです。

1.28 建物資産の価値はどこから生まれるか
建物の資産価値は、建物使用者が使用し、その使用の利益で決まります。(建物築年数とは関係ありません。) この使用の利益は、賃貸の場合は賃料収入です。自宅や自用の建物の場合は、その建物を賃貸した時に支払う賃料を支払わずに済んでいる事が賃料収入と仮定します。 ではこの使用の利益の大小はどう決まるのか?というと建物使用者の納得度です。(満足度という言葉、その尺度がまた人それぞれ異なるので、ここでは使用しません。)古い建物だから欠点はあるにしろ、欠点を含めた古い建物なりのトータルで満足度が高ければ、建物使用者は、相応の賃料を支払います。どんなにお金をかけてリノベーションをしても、使用者が納得できず選ばれなければ、使用の価値は生まれません。だから建物資産価値→建物使用の利益は、建物使用者の「納得度」が重要なのです。

1.29 難しい時代でも、建物を資産として延命する方法が分散修繕
分散修繕は、「•使いながら必要箇所のみ」式の建物延命法ですが、「壊れたら工事式」が、物の建物の延命方法に過ぎないのに対して、分散修繕は、建物資産の延命の方法です。 「壊れたら工事式」は、物の劣化対応でしかないから、実は必要ない工事をやっていたり、実は必要非常に高額工事をしていて、必要以上に高額体質になるリスクが残ったままです。またいつ工事が発生するかわからないから、お金がない時に限って工事が必要になるトラブルもあるあるで、数字面のコントロールができません。 分散修繕は、一見は「•使いながら必要箇所のみ」に見えますが、数字面で建物を負債にせずベストな利益が続く事を考えて、「物」の建物を延命します。目的が、建物資産の延命だからです。その方法を見る前に、ここで重要な概念として、資本的支出工事と建物アセットマネジメントをざっと見てみます。

1.3 分散修繕は、資本的支出工事の取り組み方

建物資産の延命工事は、会計用語で、「資本的支出」工事と言います。会計理解は必須ではありませんが、いわゆる「修繕工事」と違い、工事金額の大小で判断すべきではない工事である事、その違いの理解及び、建物が資産でる事と負債化する事の違いを理解するために、資本的支出工事の概念を見ておきましょう。

1.31 建物の資本的支出工事とは
建物の寿命を延ばす工事を、会計用語で、資本的支出工事といいます。具体的には、 資本的支出工事とは、建物の使用可能期間(建物の寿命)が延長し、(工事をしない場合と比べて)資産価値を高める工事と定義されます。

1.32 分散修繕での資本的支出工事の理解
この資本的支出工事は、例えばリノベーションといった建物全体工事も該当しますが、躯体と多数の建物設備機能の集合体である建物の、単体の経年劣化した建物設備機能のリニューアル工事等も該当します。建物を資産として使用するために、欠かせない建物設備機能を延命する事で、建物全体の使用可能期間(建物の寿命)が延長し、(工事をしない場合と比べて)資産価値が高まるのです。

1.33 資本的支出工事は、修繕工事とは何が違うのか?
この資本的支出工事は、修繕工事との違いで理解します。

例えば漏水対応、故障や停電の対応や、いわゆる修繕工事です。該当部分の問題を直して該当の建物設備機能を延命します。ただ物の経年劣化の進行は避けられません。経年と共に更に修繕対応を要するトラブルが発生します。 これに対して、資本的支出工事は、例えば漏水事故や故障や停電等トラブルを頻繁に起こす建物設備機能そのものを、新しいものに交換するといった、修繕が必要なトラブルが起こる原因を、根本解決する事です。すると、該当建物設備機能の老朽化問題が解消して、一棟/一軒の建物は延命ができます。

1.34 今まで日本では、物の建物の修繕工事の考え方しかなかったから、建物延命が難しかった
すると、なぜ今まで日本では、古い建物の延命が難しかったがか、わかります。 結局今まで日本人は、建物を「物」と認識し、全ての工事をPLの修繕工事と考えがちでした。すると、建物が古くなって使用利益が減ったのに、高額の修繕工事の費用を払うのは、無駄と考えてしまいます。また物の工事の事は、工事業者や建設業者が決める事として、「工事業者や建設業者が言う」で工事を決める事が、あまりに当たり前に考えています。だから必要以上に高額工事を行い、いずれにしろ建物負債化一直線です。そうなる事が多かったから、日本人は建物が古くなると、老朽化寿命と考えたのです。

1.35 修繕工事と資本的支出工事の会計的解釈
会計を学ぶ必要はありませんが、以下の図でイメージができると、便利です。 修繕工事はご存じの通り、PLの費用です。これに対して資本的支出工事は、建物の使用可能期間(建物の寿命)が延長し、(工事をしない場合と比べて)資産価値を高める工事として、会計上、「資産の追加取得」と考えます。つまり右側のBSの資産の部に入り、固定資産になります。そして効果が長期に及ぶとして減価償却され、毎年少しづつ減価償却費として費用計上されます。

賃料収入の考え方は、既にご説明をしていますが、賃貸物件の場合はその賃料収入、自宅や自用の建物の場合は、そこがもし賃貸だったら払ったであろう家賃が、払わずに済んでいるので賃料収入と想定をします。

1.36 会計的な修繕工事と資本的支出工事の違いを理解する
一般に、建物設備機能のリニューアルのような工事は、例え該当部分だけであっても、通常の修繕工事より高額になりがちです。 これを修繕工事と同じく全額PLの費用と考えると、古い建物にそんな高額工事はやりたかくない、となります。けれども資本的支出工事であれば、多少高額であっても、費用インパクトは減価償却分だけです。それで建物が延命し、将来も使用の利益が継続するならば、それは費用対効果のある支出です。

1.37 ただし資本的支出工事だから使用利益を作る訳ではない
とはいえ「資本的支出工事」と称すれば、何でも効果があるわけではありません。 確かに数字の会計だけでみれば、「資本的支出工事」は、BSの「建物資産」(図の①)を増やす工事です。 けれども建物資産の観点では、重要なのは、BSの「建物資産」の数字が増える事ではありません。必要なのは、「建物の使用利益」(図の②)に貢献する事です。
いくら「資本的支出工事」にお金をかけても、「建物の使用利益」に貢献しなければ、PLがどんどん小さくなって建物は負債になります。 だから、「将来の使用利益に貢献」貢献する内容の「資本的支出工事」を行わなければ、実際には建物資産を延命したとは言えません。 そしてもう一つ留意すべき事は、①と②には、時間軸の差がある事です。つまり「資本的支出工事」は、先行投資です。加えて、投資として、将来のリスクを高めない配慮も必要なのです。

1.38 PLの修繕工事とBSの資本的支出工事は工事の取り組み方が違う
ここまでの性格の違いから明らかな通り、PLの修繕とBSの資本的支出工事では、工事の取り組み方が違います。修繕工事は、トラブルが発生すれば迅速な対応が必要です。たいていどの工事豪奢が対応してもさほど結果は変わらないから(ついでに工事を売りつけられる場合は別にして)、単純に安い業者を選ぶ事もできます。
一方で、資本的支出工事は、資産に関わる先行投資です。建物所有者が、自分の建物資産の将来にどう必要か、よくよく考えて自分で決める事です。工事業者や管理者が決める事ではありません。このよくよくの中身は、この後見ていきます。

1.39 建物所有者が、資本的支出工事を決めるとは
建物所有者が資本的支出工事を決めるといってももちろん、「物」の該当建物設備機能の状態判断やどう工事できるかは、専門業者が決める事です。その提案に対して、建物資産所有者は、

  • 工事をするのか/しないのか
  • 今するのか/もう少し後にするのか
  • 予算目線はどの程度か
  • どの工事業者に相談をするか
といった事を決めます。この積み重ねが、将来の建物を作ります。これを考える事を、建物アセットマネジメントといいます。

1.4 分散修繕は、建物アセットマネジメントの考え方

建物アセットマネジメントというと、難しく聞こえますが、要は建物という資産(アセット)で、どうすれば新築・取得の初期投資に対するベストな利益を実現する事です。ここでも大切なのは、プロパティマネジメント(管理)との違いを理解する事です。日本では従来、ビル経営でさえ、大家さん=「管理」です。言葉を知っているではなく、その意味するところを理解する事が重要です。

1.41 建物アセットマネジメントとは
建物アセットマネジメントと聞くと、難しい金融の話と思われるかもしれませんが、基本は「新築/取得した資産(アセット)で、ベストな総利益を得るにはどうするか?」という、誰でも当然に考える事を考えて実現する事です。 基準は、最初の新築/購入の初期投資に対する利益です。つまり、単年度の利益も重要ですが、同時に建物資産を所有する全期間という非常に長い時間軸で考えるのが、建物アセットマネジメントです。

1.42プロパティマネジメントと 建物アセットマネジメントの違い
プロパティマネジメントは、そこにあるアセット(建物資産)から、ベストな年間収益を得る事が目的です。(自用の建物や自宅の場合は、もしそこを賃貸していたら払っていたであろう賃料を払わずに済んでいる分を賃料収入と考えます。)つまり基本、単年度の収益に集中します。 これに対して、建物アセットマネジメントは、所有するアセット(建物資産)の所有期間全てを通しての、利益の最大化が目的です。そのために、もちろん来年度の利益の最大化も考えますが、プロパティマネジメントが、1年の時間だけを考えるのに対して、建物アセットマネジメントは、例えば100年所有続ければ、100年の利益の合計のベストという、非常に長い時間軸を同時に考えます。


1.43 アセットマネジメントの全体像と不動産アセットのキャピタルゲイン・インカムゲイン
そもそもアセットマネジメントそのものは、不動産だけではなく、債券や株式も対象になります。ただ建物という資産(アセット)には、固有の特徴が多くあります。 建物という資産(アセット)の利益源は、キャピタルゲインとインカムゲインの2つがあります。キャピタルゲインは、売却益です。インカムゲインは、使用の利益です。(既にご説明しているように、賃貸であれば賃料収入、自宅や自用の場合は、賃貸なら払うべき賃料を払わずに済んでいる分を、賃料収入と考えます。)両者は独立しているかというと、例えば不動産が売却できた場合、その買主は、購入後のインカムゲインを期待し、そこに十分な使用利益を得られると判断して、購入を決めます。
キャピタルゲインは、いわゆる不動産投資での「EXIT」です。所有する不動産の高値売却は、誰もが夢見ますが、実際にはそう簡単な話ではありません。キャピタルゲインは、マーケットの影響を受けます。高く売れる時もあればそうではない時もある。買い手がいなければ、価格は下がり、ただでも売却できず負動産となるリスクもあります。また売却で利益を得ても、譲渡所得税金がかかり、節税買い替えといっても、同じ「物」は2つとないのが不動産です。想定より悪い物件を購入してしまうリスクがあります。再開発も成功するとは限りません。不動産投資は、いつでも誰でも簡単に成功できるものでは、ありません。(それができればみな成功しています。)

1.44 インカムゲインは長期安定にメリットがある
一方、インカムゲインとは、建物の使用利益です。建物使用利益は、賃貸物件であれば、(賃料収入ー管理や修繕費、公租公課等の必要費用の合計)です。(何度も繰り返しますが、自宅や自社ビル等自用の建物であれば、賃料収入は、もしそこを賃貸していたら払っていたであろう賃料を払わずに済んでいる分を賃料収入と考えます。) このインカムゲインは、キャピタルゲインに比べると地味ですが、社会経済の波を受けにくく、低リスクで安定しており、長く継続すればキャピタルゲインに負けない利益を積み上げます。どのくらい長いかといえば、英欧米では100年200年何世代にもわたっても、まだまだ現役です。 無理に投資で賭けをせずとも、低リスクで安定利益が長期に続くなら、こちらの方が確実です。

例えば建築時/取得時に、利回りが10%だったとしましょう。単純計算で、10年で初期投資をペイできます。その後も安定したインカムゲインが続けばそれは純粋に利益です。収益物件の場合、経年と共に賃料収入は減少しますが、長期ではインフレもあり、一定水準を維持できます。例えその後が新築時賃料収入の半分(計算しやすいように)になったとしても、その後20年で、初期投資の倍、築50年で初期投資の3倍、築100年で初期投資の4.5倍、築200年で9.5倍の利益が、低リスクで積み重ねられます。こんなに美味しい話は他にあるでしょうか?

1.45 難しい時代の定石は安定インカムゲイン
高投資高リスク高リターンを狙える大資本や富裕層、不動産投資家ではない限り、一般人にとって、建物アセットマネジメントとは、ひたすら低リスクで安定した長期インカムゲインを狙う事です。 リスクが低く、とにかく長く使用を続けていれば、自然に使用利益が積み重なります。 ただ「長期」ではなく、「安定」が付いている事にも留意をしましょう。変動は、ボラティリティとっ呼ばれ、リスクです。例えば今年建物を空にして使用利益ゼロ(どころか固定資産税等でマイナス)、来年リノベーション工事をして、再来年は高い賃料収入・・と絵を描いても、どこかで問題が発生してその通りにならなければ終わりです。建物資産のインカムゲインを長期積み重ねるとは、そうしたリスクを避ける事も含まれているのです。

1.46 問題は安定インカムゲインの敵:リスク
では長期安定インカムゲイン実現のリスクとは何でしょうか?建物資産にはやはり固有のリスクがあります。

建物資産には、物リスクと数字リスク/現在リスクと将来リスクのペアがあります。 いずれも片方のリスクに対応すると、反対側のリスクが高まる特徴があります。

物と数字のリスクの関係は、先に説明しましたが、物、数字、いずれかの現在のリスクを解消すべく問題解決をすると、ペアとなるリスク(数字、物)は、後に現れます。将来リスクが高まる事が怖いのです。

1.47 最悪は、負のサイクルに陥る事
将来リスクの高まりが怖いのは、対応ができないと負のサイクルに陥り、建物負債化一直線になるからです。 ビルは多少問題が増えても、すぐに使用できなくなるほど「やわ」ではありません。ただ、10年20年と問題が積み重なると、より解消に費用がかかるようになります。数字リスクを恐れて、建物状態を悪化させ、それが積み重なるとより解決に費用がかかります。物リスクを恐れて、高額工事をやりすぎて数字リスクが高まると、その後の工事ができなくなり、同じ道に進みます。より問題が積み重なり、より解消に費用がかかるようになり・・という負のサイクルに陥り、やがてビルは負債化になります。



1.48 建物アセットマネジメントの本質
インカムゲイン型は、キャピタルゲイン型に比べるとはるかに低リスクですが、何もしなければ自然に将来リスクが高まり負のサイクルに陥ります。インカムゲイン型建物アセットマネジメントは、「新築/取得した資産(アセット)で、どう「資本的支出工事」を低予算で効果的に行い、「建物の使用利益」を作り続けられるか?」を考えて実現する事ですが、その本質は、リスクを高めないようにする事です。つまり、建物アセットマネジメントの本質は、リスクのコントロールなのです。分散修繕は、まさにそのための方法です。

1.49 日本は、建物アセットマネジメントの考え方が無かったから、建物寿命が短いままだった
ここまで見ると、日本の建物寿命が短かった理由がわかります。 日本人は、大家さん(管理)はあっても、建物アセットマネジメントの考え方が従来ありませんでした。建物の新築/購入の初期投資に対して、どうしたら最大の利益を得られるのか?の考えがなく、全ての工事を修繕費用と考えるから、古い建物にお金をかけるのは無駄だと考えます。金融機関やデベロッパー・建設業者プロパガンダに刷り込まれたとも言えますが、建物を例えば減価償却が済んだらもう寿命と考え、せっかく長いローンを払い終わると、もう価値が無いと考えて、売却や建替えをしてしまい、次世代に資産を残さず負債を残そうとしてしまっています。もうそろそろ止めてはいかがでしょうか。

1.5 分散修繕で将来のリスクを高めないとは

ようやく最初に戻って、分散修繕は、建物所有者が、建物を資産として延命する方法です。そのために単に「資本的支出工事」を行えばよいのではなく、どうやって「資本的支出工事」を行えば、建物の使用を継続しながら、将来のリスクを高めず、建物の資産価値を保ち続けられるかが、問題になります。 これを具体的にどう考えるか、見ていきましょう。

1.51 分散修繕は、分散によりリスクを高めない
分散修繕の名前にある「分散」とは、リスクの分散、リスク対応の分散を意味します。日本だけの名称です。分散修繕は、経年劣化等建物設備機能のリスク対応を、分散して行います。分散させることで、1つ1つの工事予算規模を小さくして数字のリスクを高めず、必要なタイミングで工事しやすい事で物のリスクも高めないようにします。 ちなみに日本では「一度にまとめて」の方が、中間費や手間がかからないという考えもありますが、もちろん規模にもよりますが、大きな工事は、無駄な中間費や念のため工事や確認が甘くなり必要以上の工事が入りがちです。



1.52 分散修繕の建物アセットマネジメントの会計的理解
インカムゲインの建物アセットマネジメントを、会計的に見ると、次の通りです。 建物という資産は経年と共に経年劣化して、使用利益が減少していきます。同時にBSの建物資産も減価償却と共に、減少していきます。そこで建物アセットマネジメントは、資産価値と利益を回復させるもしくは低下を止めるべく、
①PLの利益から予算を準備し、
②経年劣化個所に資本的支出工事を行い、その結果
④建物資産が使用利益を産む状態で維持され、
⑤それが使用されてPLの利益を産むようにする、この一連の流れを、時間軸に沿って実行します。
この一連の流れを実践して実現するのが、建物アセットマネジメントです。分散修繕は、原則外部からの資金を入れずに、つまり自立して、このサイクルを安定的に回して、実現します。永遠にでも利益を創造できるのです。



1.53 分散修繕の基本系
分散修繕の基本系は、工事予算を準備してから、資本的支出工事を極力低予算で行う。終わると次の工事予算を準備し、工事予算が準備できてから、次の資本的支出工事を極力低予算で行う。この繰り返しです。これならば、負債を作る数字リスクが高まりません。

ただし、これを実現するために、次の2つのルールがあります。

1.54 1 分散修繕は自分の予算計画ありき
分散修繕は、自分の予算計画ありきです。これが、従来日本には存在しなかった考え方です。日本は従来、建物の事は、建設会社やビル管理会社が作成する長期建物修繕計画や、修繕工事を行う建物設備機能の専門工事業者や建物管理者の意見ありきで、決まり勝ちです。だから、それが高すぎると思ったら、もう建物は寿命になりました。 これに対して分散修繕は、建物資産所有者が、無理のない予算を決めます。そして自分の予算計画に合わせて必要な工事を行います。だから、建物が寿命にならないのです。

1.55 2 低予算は、物と数字のリスクをコントロールし、利益を守る
分散修繕では、低予算=工事で無駄遣いをしない事は、非常に強力なリスクコントロールの札です。 無駄遣いをしなければ、必要なタイミングで工事予算が無い!工事費用がかかりすぎる!問題が減ります。低予算を貫けば、将来の数字のリスクも高まりません。

資本的支出工事が低予算であればあるほど、手元に利益が残ります。トリプル利益です。 ただ工事費用をけちりすぎて、使用者の納得度が悪化すると、将来の使用利益が減ります。すると負のサイクルに近づきます。だから低予算は、将来使用者の納得度も悪化させないコントロールが重要です。 このコントロールは、現実には、

  • 何の資本的支出工事を行うのか/行わないのか
  • どのタイミングで行うのか
  • 機能性能グレードを含めどの程度予算を配分するのか?
の判断で、行われます。分散修繕では、これをどう考えるのでしょうか?

1.56 低予算とは、将来の建物所有者にとって、無駄や過剰のない建物作り
一棟/一軒の個別の建物設備機能リニューアル工事について、何が必要か必要でないかは、結局のところ今建物にあるかないかではなく、将来の建物所有者がそれをどの程度必要するか、で決まります。 これは単に工事が必要かどうか、だけではなく工事の内容(機能性能グレードの程度をどの程度求めるか)も同様です。これを考えるためには、将来の建物所有者の、建物使用納得度に対する洞察が必要です。

1.57 資本的支出工事時期の考え方
もう一つ低予算を考える上で重要なのが、いつ頃(もしくは何をトリガーとして)「必要なタイミング」と判断するかです。この費用インパクトは、非常に大きなものです。

例えば排水管の漏水事故が1回おこれば、交換を考えるか、頻発してから交換を考えるか、人それぞれの考え方です。ただ、長期の総利益を考える建物アセットマネジメントとして長い目で考えると、建物設備機能のリニューアル工事は、早く行えば物のトラブルリスクはなくなりますが、100年200年で考えると、リニューアル工事の回数が増えて、高予算になります。逆に先延ばしにすれば、予算は節約できますが、物のトラブルリスクは高まる一方です。

普通は極端な選択は避けたいところです。すると、自分の予算計画と相談をして、早すぎず遅すぎないと感じられるタイミングを自分で見つけなければいけません。

1.58 分散修繕には最初は計画が必要
これらを事を考えるために、建物資産所有者は、次の3つが必要です。
  • 建物全体を把握する
  • 将来の結果を予測する
  • 資本的支出工事に優先順位をつける
これらを、最初は30年分散修繕計画を作成して、身に着けます。 一見大変そうに見えますが、一棟/一軒の建物にある建物設備機能の数は限られているので、さほど難しくありません。伝統的に分散修繕を実践してきている欧州や世界の中小ビル資産所有者達は、文化として自然に身についています。ただ日本ではそうした文化が従来なかったので、最初は計画が必要ですが、慣れると必要なくなります。

1.6 30年分散修繕計画の作成と建物長寿化プラン

30年分散修繕は、100年200年の長い建物ライフのうち、任意の30年を切り取って、資本的支出工事の取り組み方針を検討するものです。いつ何の工事をするか決めるのではなく、必要なタイミングで決めるための方針を見つけたいのです。特に築30年~築50年超の、最初に建物設備機能等の延命工事が集中しがちになる時期に作成をする事で、なるべく少ない予算でかつ、将来のリスクを高めずに、長期的な建物使用利益をベストにする建物設備機能等のリニューアル方針が実践でき、その後の資本的支出工事の判断で、大きく失敗しなくなります。

1.61 30年分散修繕計画の作成
30年分散修繕は、100年200年の長い建物ライフのうち、任意の30年を切り取って、資本的支出工事の取り組み方針を検討するものです。 30年分散修繕計画は、エクセルで作成できます。縦に工事項目を並べ、横に各年度の予算計画が並びます。当社では、自動計算の計算式を埋め込んだ、検討用のシートを差し上げています。


1.62 作成タイミングは、建物が築30年築40年程度の長寿化移行ステージ
建物ライフサイクルの最初の30年は、通常ほとんど大きな工事の必要性が無いのが普通です。分譲マンションでは大規模修繕工事をやりますが、本当は早い時期には必要ないものです。屋上防水工事や屋根防水工事、空調設備や消防設備の交換、水回り等をリフォーム等はやっている人はやっているでしょう。ただまだそれほど高額ではありません。 けれど築35年くらいから、経年劣化による老朽化、機能不足、トラブルが増えてきます。そこですぐに対応されている方もいらっしゃれば、先延ばしにされている方もいらっしゃるでしょう。そこからの対応で建物が寿命になるか、長寿化できるかが決まります。その移行ステージが、30年安定ビル資産経営計画作成のタイミングです。

1.63 30年分散修繕計画の考え方
30年分散修繕計画は、大枠には、【30年の総利益ー30年の資本的支出工事】がベストになるように、なるべく低予算の資本的支出工事を目指します。ただ低予算だけが目的ではなく、

  • 将来リスクを高めない・・例えば30年は低予算でも、31年目に重要工事が集中しては意味がありません
  • 将来も使用利益が継続する・・低予算の結果、建物の使用者の納得度が減少して使用利益も激減しては、意味がありません。
すると、どのような低予算であれば、将来リスクを高めず、将来も使用利益(将来の建物使用者の納得度)も減少しないのか、このバランスを見つけたい訳です。

1.64 30年分散修繕計画で検討する事
具体的には、30年分散修繕計画の作成を通して、
  • 今後30年でどの程度の総工事予算をかけるか
  • 何の資本的支出工事を行うか
  • どの程度の機能性能グレードが必要か
  • いつ頃に、行うか
のバリエーションを検討し、建物全体で具合を見ながら、様々な可能性を比較検討します。

1.65 30年分散修繕計画で見つける事
そこから、自分の建物のための分散修繕方針がわかります。
  • どの程度の工事予算を毎年留保すべきか
  • 何の建物設備機能のリニューアル等資本的支出工事を行うか
  • (何の建物設備機能のリニューアル等資本的支出工事を行わずに済ませるか)
  • 工事サイクル=トリガーをどの程度に考えるか
  • 工事予算目線(機能性能グレード水準、範囲、相談する工事業者のサービス水準等)


1.66 決めるとは、選択。 試行錯誤が勘を養う
30年分散修繕計画を作成したからといって、その通りに工事にはなりません。実際の工事は、(工事が必要と判断する)トリガーを見極めて、やはり個別に判断します。けれども、決めるとは選択です。例えば工事する/しないは、最小の選択肢です。先に30年分散修繕計画の作成を通して、色々なバリエーションを作成して選択肢を作り、各案の建物全体と将来リスクを比較検討をして1つの案を選ぶ事は、それ自体が工事を決める事の練習になります。その時の試行錯誤が、勘、特にリスクに対する勘を養います。 同じ工事判断の場面でも、30年分散修繕計画で検討をした経験があれば、建物全体の将来の影響を考えて、冷静に建物アセットマネジメントとして、将来リスクを高めずに、長期的に建物の利益となる方針を選択できます。(少なくとも将来リスクを高めるような判断は、劇的に減らす事ができます。)

1.67 できれば建物長寿化プランも作成したい
30年分散修繕計画は、これからの30年間を切り取って自分の建物の資産維持に必要な予算感や工事の程度を検証検討するために作成をします。実は、1棟/1軒の建物としては、一度方針を決めれば、後はそう難しくありません。また分散修繕を30年も続ければ、必要工事時期も自然に分散されていきます。そこで作成をしておきたいのが、自ビル・マンション等の100年の建物長寿化プランです。こちらは、30年分散修繕計画を作成して見つけた方針に従って、これから100年、建物設備機能の工事サイクルを意識し、10年単位くらいで、いつ頃何の工事が必要か、どの程度の予算留保を見込むべきか、わかるようにしておくものです。


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Ⅱ 30年分散修繕計画作成の準備

30年分散修繕計画を検討するにあたっては、エクセルに向かう前に、準備が必要です。準備は,時に調べたり人に聞いたりと、日数がかかります。余裕を持って取り組みます。

2.1 30年分散修繕計画作成の全体像

まず改めて、30年分散修繕計画作成の全体像を改めて確かめます。30年分散修繕計画の作成は、建物資産100年の時間軸の中で、現在から30年を切り取り、自分の工事予算やいつ頃どこの建物設備機能のリニューアルにどの程度の費用をかけるかを、検討するものです。作成のベストなタイミングは、特に築30年~築50年超の、最初に建物設備機能等の延命工事が集中しがちになる時期です。そこでなるべく少ない予算でかつ、将来のリスクを高めずに、長期的な建物使用利益をベストにする建物設備機能等のリニューアル方針を見つける事で、その後の資本的支出工事の判断で、大きな失敗が無くなります。

2.11 建物ライフサイクルの中の30年分散修繕計画
30年分散修繕計画は、建物ライフサイクルの中の一部である30年を切り取ったものです。30年の資本的支出工事計画は、建物の長いライフサイクルの流れに沿います。だから30年分散修繕計画の準備として、流れの前後が見えるようにします。

①現在建物にある建物設備機能をすべて洗い出す
②今までの資本的支出工事履歴及び大きな修繕工事履歴を確かめる
③30年後に向けた将来の建物使用者がどのように建物を使用するか
④この建物が満足して使用できているであろう将来の建物イメージ
⑤30年の資本的工事予算の財源
⑥30年の分散修繕工事予算
⑦30年の分散修繕による資本的支出工事

2.12 現在時点での建物設備機能の把握
①現在時点での建物設備機能をもれなく把握する事は重要です。詳しい項目は必要ありません。検討の基礎でもありますが、自分所有する建物に何の建物設備機能があるかは、知っておくべきです。竣工図は参考ですが、竣工図と現在では違っている事もありますから、目視でも確認をします。 また②建物の過去の資本的支出工事や重大工事履歴も、わかる範囲で確認します。建物設備機能状態の判断の目安になります。(わからなければ構いません。)         

2.13 より重要なのは、将来の想定
将来の建物使用利益を作る資本的支出工事を最も低予算に行う寳保は、将来の建物使用者にとって必要な工事(とその内容)だけを厳選する事です。例え竣工時にあっても、将来の建物使用者にとって重要ではない建物設備機能にお金をかける事は、無駄以外の何物でもありません。 だから、どのような建物(を構成する建物設備機能)を実現したいのか、を先に明確にします。将来の工事予算の財源、将来の建物使用者、将来の建物使用者が使用する自建物像を、想像しておくことは、低予算実現の鍵です。

2.14 建物延命工事の財源と建物延命工事予算
分散修繕は、建物所有者の資金計画にあわせて行います。それが建物延命で負債をつくらない方法だからです。従って、30年分散修繕計画の作成にあたっては、将来の建物延命予算の財源を現実的に予測して、どの程度を自分の利益として確保し、どの程度を建物延命の予算=30年総工事予算として留保するか、現実的に考えます。

2.15 30年分散修繕計画とは、30年総工事予算の配分計画
30年分散修繕計画は、所有者にとっては、30年総工事予算の配分計画として考えます。もちろん机上の数字だけではなく、実際の物としての建物設備機能の状態を考えられている事が前提です。ただ建物の、物としての建物設備機能の状態を踏まえた上で、どの時点で何の建物設備機能のリニューアル工事に投資をすれば、「30年トータルで低予算の資本的支出工事でベストな総利益」を実現するか?を試行錯誤して、見つけたい訳です。


2.17 30年分散修繕計画作成のための準備
30年分散修繕計画の作成は、建物の長いライフルサイクルの一部を切り取り、そこで試行錯誤をして、ベストな「30年トータルで低予算の資本的支出工事でベストな総利益」を見つけますが、それは30年だけが、独立しているものではありません。だから、机上で30年分散修繕計画を検討する前に、準備として考えたり調べたりする事があります。 ここから便宜上、先に③~⑤をみてから、次の①~②を見ます。そして具体的な30年分散修繕計画作成の準備に入ります。

2.2 準備:将来を考える

この30年分散修繕作成のミソが、先に将来の建物の在り方を丁寧に考える事です。なにしろ、将来の建物使用利益を作る資本的支出工事は、将来も使用利益を産む建物を作る行為です。だからどのような建物(を構成する建物設備機能)を実現したいのか、を先に明確にする事が、低予算の秘訣なのです。

2.21 準備⑤ 30年の資本的工事予算の財源を確かめる
原則、安定財源を考えます。つまり収益ビルなら賃料収入、企業なら事業売上、個人であれば個人手雲集です。既に修繕資金の準備や、臨時財源の予定がある場合は、ボーナスとして、とっておき、どうしても必要な場面で投入する事をお勧めします。

2.22 準備③30年後に向けた将来の建物使用者がどのように建物を使用するか
これが重要です。今後30年のビル使用者を、具体的に想像します。例えばビル使用者は女性が多いか、男性が多いか、若年層が多いのか平均年齢が高めか・・、使用は事務所か、店舗か、事務所と一言言っても、来店型か、堅い雰囲気か、自由なスタイルを好むか・・手法としてマーケティングのペルソナ手法が役に立ちます。

2.23 準備④この建物が満足して使用できているであろう将来の建物イメージ
将来の自ビル使用者が使用している将来の自ビルがどんな様子か、想像をしてみます。

もちろん「工事予算の財源から推測できる現実的な予算」「自ビルの個性・良いところ・価値を生かす」事は念頭にあるでしょう。ここは、また30年分散修繕計画の検討で、より具体的な予算を考慮して何度も見直しますから、最初は自由にイメージして構いません。例えば現在と変わらない、という場合でも、現在から経年劣化を放置するのか?本当に細部も含めて変えないのか?でも、自ビルの将来像は変わります。

2.24 自ビルの特徴、個性を生かす事が一番低予算
低予算を考えるなら、原則は、自ビルの特徴、個性を生かす事です。それが一番低予算で高使用者満足を実現できます。 人間と同じで、個人個人に癖がありますが、それが魅力だったりするのです。洋服でも、流行おくれはダサく感じますが、しばらくして一周するとまたそれが流行になります。所有する建物も卑下するところはどこもありません。自信を持ちましょう。

2.25 将来イメージは、建物使用者の希望に振り回されない
ここで使用者満足度を知るために、現在の建物使用者に、現在の建物で何が不満か?どこが改善されると嬉しいか?と聞きたくなるかもしれません。参考情報としては、構いませんが、建物使用者の希望に振り回されないように留意しなければいけません。 現在の建物使用者は、「親切に」、改善希望点を教えてくれるかもしれません。けれども彼らは、予算の心配はしません。資産維持の責任も持ちません。賃貸物件で、例えばそれを全部改善し、相応に賃料を上げても、納得して入居続けるかというえば、また別の話です。利便性の向上は、誰もが望みますが、建物資産所有者は、建物の長期利益を守る観点から、何を対応し、何は必要ないかを、考えなければいけないのです。

2.26 イメージに困れば、英欧米の普通の建物を参考に
もし古い建物維持のイメージに困るなら、日本ではなく分散修繕を実践している英欧米の建物を参考にしましょう。 英欧米いずれの国も、1960年代1970年代はベビーブームによる人口激増で、多くの戸建て住宅や団地・マンションが建てられています。多くは現在現役で、特別な事情が無い限り、誰も建替えなど言いません。街中であれば、19世紀18世紀それ以前建築の、中小ビル・マンションが立ち並んでいます。例えばドイツの多くの都市では、第二次世界大戦でがれきの山になった後の復興ビルは、1950年代築ですが、普通に現役で華美がなく簡素ですが、綺麗に清潔に維持できています。

2.3 建物の建物設備機能状態を把握する

さて、ここから、ようやく物の建物に向き合います。まず現在の建物設備機能を洗い出し、次に過去の重要工事記録を確かめます。

2.31 準備①現在建物にある建物設備機能をすべて洗い出す 最初に、現在建物にある建物設備機能をすべて洗い出しておきます。長期修繕計画表があれば、それを参考にします。ただ長期修繕計画表のように、細かい項目までは必要ありません。

エレベータ、給水管、排水管、消防設備・・・といった大まかな項目で十分です。知りたいのは何があるか?です。また一方で長期修繕計画には、建物内部のテナント使用部分が含まれているものといないものがありますが、含まれていない場合は、オフィスビルであれば各フロアの、トイレ・給湯室、空調、セキュリティ、必要に応じて消防設備、窓とサッシ、防災設備等資本的支出工事の対象となる物を加えます。 長期修繕計画表がない場合、竣工図を読む必要はありません。目視で確かめたり、管理者に聞いて確かめます。自分の所有する建物に、何の建物設備機能があるかくらいは、所有者として把握をしておくべき事です。

2.32 準備②今までの資本的支出工事履歴及び大きな修繕工事履歴を確かめる 一通り現在建物にある建物設備機能をすべて洗い出したら、過去の資本的支出工事履歴及び大きな修繕工事履歴を、分かる限りで確認をします。今後の工事サイクル検討の重要情報です。

正確な年月日や金額は必要ありません。いつ頃どこをどう工事をしたが、だいたいわかれば十分です。 過去の工事履歴情報があれば、それを確かめます。ない場合、過去の確定申告書も参考資料になります。税理士が固定資産一覧表を作成して、そこに資本的支出工事も入れている場合は、それが参考になります。そうではない場合、修繕費に大きな金額ある年に、何の工事をしたかを確認します。(領収書/支払い記録があれば、そこから推察できます。)そういった記録がなければ、管理者や過去を知っている人の記憶や目視で工事の後を見つけて、なんとなく推測しておきます。どのみち築25年より前は、大きな工事はほぼありません。だから現在築40年でも、せいぜい過去15年くらいを確かめられれば、十分です。


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Ⅲ 30年分散修繕計画の作成

ここからエクセルで30年分散修繕計画を検討します。考え得る色々なパターンを計画にしてみて、沢山作成します。そうして試行錯誤し、比較検討をする事で、だんだんと将来リスクや予算削減の勘が養われます。

3.1 30年での検討対象資本的支出工事を抽出して、優先順位をつける

さてここから、30年分散修繕計画の作成と検討に入ります。 まず30年分散修繕計画のフレームを作成し、そこから、30年でリニューアル等工事が予測される対象を、抽出し、優先順位を付けます。非常に重要なところです。ある程度、建物工事を経験している人にとっては、難しくありませんが、初めての方には、それぞれが判断に勇気が必要だと思います。初めてであれば、ビルオのサポートや講習会をお勧めします。

3.11 30年分散修繕計画のフレームを作成する
まず30年分散修繕計画のフレームの作成です。これは30年分散修繕計画の縦蘭には、上に資金計画表が並び、その下に洗い出した建物設備機能や内装外壁等のリストが縦に並びます。そして横軸は30年です。ただしシミュレーションと検討には、計算式が入っている必要があります。当社でご相談を頂きますと、計算式入りのテンプレートをご提供しています。 並べる際に、洗い出した建物設備機能や内装外壁等のリストを、4タイプに分類をしておくと、後で色々検討しやすくなります。

3.12 洗い出した自ビル建物設備機能を状態で色分けする
洗い出した建物設備機能や内装外壁等のリストに、現時点の想定状態で色分けします。調査は必要ありません。一般的な実耐用年数を基に、過去の工事履歴も参考にして、例えば次の通りに色分けします。
無色:実耐用年数内
黄色:実耐用年数を過ぎている
赤:明らかな問題がわかっていて早期にリニューアル等資本的支出工事が必要な対象
青:旧耐震基準建築建物等で耐震問題がある場合


3.13 今後30年で赤になる可能性がある建物設備機能をオレンジにする
先につけた赤色は、現在わかっている、明らかに対応が必要な問題ですが、耐用年数が短く、30年の時間軸の間にリニューアル等の資本的支出工事が必要になる対象もあります。 例えば屋上防水工事は、現在築40年でそこから30年後の築70年までには、2回目、もしくは3回目が必要になるでしょう。築40年でエレベータは問題ないといっても、どこかで最低基盤交換が必要になります。そうした対象は、オレンジにします。


3.14 30 年後のビル像を思い浮かべる
ここから、30年後の目標として、将来のビル像を改めて想定します。

3.15 今後30年で新しく追加したい建物設備機能をリストする
まず30年後のビル像実現のために、新しく追加したい建物設備機能があれば、それを縦蘭に追加します。どうせ後で優先順位をつけて検討しますから、気になるものは全てリストをして、オレンジ色をつけておきましょう。


3.16 今後30年で廃止して構わない建物設備機能を考える
一方で、30年後の自ビル使用者にとって重要ではない建物設備機能の、思い切った廃止も考えます。またソリューションが変更になって、必要なくなるものもあります。例えば屋上の高置給水タンクは、直結増圧式給水に変更をすれば、必要がなくなります。対象があれば、グレーにしておきましょう。どうせ検討でまた見直します。

3.17 工事対象候補に優先順位をつける
赤若しくはオレンジの資本的支出工事候補に、優先順位を付けます。といっても3分類(絶対必要/なるべく必用/できれば)に分ける程度で十分です。 この優先順位をつける時の留意点は、将来ビルの必要性で分類する事です。後で見直すから、最初はなんとなくで構いません。

3.18 リニューアル/新規追加工事対象について、具体工事名を挙げる
工事対象候補の優先順位が高いものについては、必要となる具体工事名を調べておきます。ここでは、建物管理者や専門工事業者に意見を求める事もあるでしょう。(見積書は不要です。)


3.19 優先順位が高い工事の予算目安も調べておく
同時に、各工事の予算目安も調べておきます。インターネット検索でかなり情報収集ができます。わからなければ、ビル管理者や工事業者にさらりと聞いてみましょう。
各工事予算目安は、幅があります。だから各工事予算は、例えば200万円~400万円といった費用幅として把握します。

3.2 総工事予算を決める

30年総工事予算の原則は、毎年一定金額確保です。
理想は、自用ビルであれば賃貸を想定して3%‐7%
収益ビルで財源である賃料収入の5%-10%
修繕資金の準備がある場合や、今後一時的な修繕資金確保の予定がある場合は、ボーナスの予備資金として留保しておくことをお勧めします。ベースは毎年定額工事資金確保であるべきです。長い間には、常に工事用予備資金があるとは限りません。もし財源から上記の留保が難しければ、可能な限りで十分です。例え年間100万円でも30年で3000万円分工事ができます。

3.12 30年総工事予算も、どんどん削減する
この後予算配分で、足りなければ増額、予算を圧縮できれば30年総工事予算も削減します。どちらにしろ一通り作成が出来たら、その後はより総工事予算を削減を目指します。

3.3 工事予算の配分の検討

そして検討のメイン 準備⑦30年の分散修繕による資本的支出工事の検討です。仮決めした30年総工事予算を、いつ頃何の工事にどの程度配分するかを、試行錯誤します。同じ建物の同じ30年総工事予算でも、この予算配分次第で将来ビルのあり方は大きく違います。逆に同じ将来ビルの使用利益、ビル使用満足度でも、工事の取り組み方次第で30年の総工事予算は大きく変わります。

3.31 必要工事に工事予算を配分してみる
とりあえず、3.17 工事対象候補に優先順位をつける で上位に挙げ、3.19 優先順位が高い工事の予算目安も調べておくで予算の目安を調べた工事を、30年分散修繕計画に入れてみましょう。最初は、時期もアバウトで構いません。もし予算に余裕があれば、工事対象候補を増やします。

ただ、最初は全然予算が足りない!と絶望的に感じる事が、普通です。そこから工事予算を削減します。分散修繕の考え方は、足し算ではなく、引き算です。

3.32 30年の分散修繕による資本的支出工事の検討ポイント
30年の分散修繕による資本的支出工事の検討ポイントは、

  • 何の資本的支出工事を行うのか/行わないのか
  • どのタイミングで行うのか
  • 機能性能グレードを含めどの程度予算を配分するのか?
です。そしてそれぞれの検討ポイントで、工事予算削減を目指します。

3.32 各資本的支出工事予算削減の3つの方法
30年総工事予算内での、各工事予算削減とはつまり、

①工事対象を減らす  →将来ビル像の見直し

②各工事サイクルを引き延ばす →リスクコントロール
③各工事予算を削減する
3つの札の全てで予算削減を目指しますが、どこを特に予算削減し、どこの予算は手厚いままのこすといった考え方次第で、将来のビル像は違ってくるのです。

3.33 ①工事対象を削減する 工事対象の削減は、強力な予算削減方法ですが、実際には2つの考え方があります。
1工事を30年後より先に先延ばしにする
2「2.34 洗い出した自ビル建物設備機能の方針の分類」を廃止に変更する
どちらも将来のリスクを高めるリスクがあるから、よくよく考える必要があります。
1の工事先延ばしは、次の②で触れる工事サイクルを延ばす事です。工事サイクルを延ばした場合のリスクを同時に考えます。 2の該当の建物設備機能を廃止にする変更は、将来の建物使用者が使用する建物像の変更です。だから、建物使用者の納得度が下がらないかが、問題です。(考えてみたら、大丈夫じゃないか、となる事も多いですが。)ただこの納得度は、あくまでも想像だから、何度も見直しているうちに、最初は無理と思ったのが、廃止しても構わないと思えるようになるケースもままあります。

3.34 ②各工事サイクルを引き延ばす 工事の先延ばしは、これも手っ取り早く強力な工事予算削減法です。壊れたら修繕式でもよく使います。ただ工事の先延ばしは当然に、将来のモノと数字のリスクを高めます。 建物設備機能等リニューアル工事は、100年200年の延命を考えると、1度ではなく何度も繰り返されるものが多くあります。つまり資本的支出工事の多くは、サイクルです。そしてこのサイクルが短い長いで、長期的な費用インパクトは小さくありません。この工事サイクルの考え方は、「3.4 工事をいつ頃予定するか(工事サイクル)」でより詳しく見ていきます。この工事サイクルは、物としては、何らかの建物設備機能等の問題状態をトリガーとして、結びつきます。実際には、他の工事との兼ね合いで、時期が前後する事もあります。

3.35 ③各工事予算を削減する 外壁、キュービクル、給排水等、各建物設備機能リニューアル等工事予算の削減は、見積書を叩くのでなく、建物資産所有者が、合理的に建物設備機能グレード等の水準を決め、水準以上の過剰過大を削減する事で、実現します。工事予算の削減ポイントは、「3.5各工事予算の削減」でより詳しく見ていきます。日本のビルは過剰機能性能グレード水準が多いので、思い切って削減をしても大丈夫です。

3.36 一つの30年工事予算配分のリストを作ってみる なんとか30年総工事予算内で収めた30年工事予算配分のリストを、まず1つ作ってみましょう。最初は迷うところがあっても、構いません。この段階では、工事時期は深く考えません。


3.37 沢山のバリエーションを作ってみる 例えば小さ目中規模ビルでキュービクル・エレベータ有 予算は厳しく年間120万円確保し、30年で3600万円としても、色々な工事計画があり得ます。他にも、多工事低額予算、少数工事高額予算といった、バリエーションが色々考えられます。
机上で試行錯誤する分にはリスクがありませんから、思い切った削減をしてみて、どんなビルになるか想像しても面白いと思います。思いもよらなかった可能性が見つかるかもしれません。

3.38 更に将来ビル像もバリエーションを考える 更に将来ビル像も、予算削減目線で見直し、より低予算将来ビル像のバリエーションを検討します。ちなみに、一般的な例は次の2つです。

■シンプルビル
シンプルビル化は、
1各建物設備機能の機能性能グレードを削減する
3工事対象を削減する 
を限界まで追求します。欧州はシンプルな築古ビルが多いです。シンプルならではの趣があります。


■個性化ビル
これは、
1各建物設備機能の機能性能グレードを削減する
3工事対象を削減する 
といった極端なメリハリを作る事です。築古ならではの個性が明確になります。

3.4 工事をいつ頃予定するか(工事サイクル)

工事をいつ行うかは、工事サイクルの問題です。工事サイクルをどう考えるかは、非常に重要なリスク管理の問題です。

3.41 工事の時期を決めるとはどういう意味か
工事がいつ必要か?決めるのは専門知識を持つ建物管理者や専門工事業者と思っている方が少なくありませんが、工事の時期を決める事は、所有者のリスクのコントロールです。 今このタイミングでモノのリスクを解消する事で、将来の数字のリスクを高め負のサイクルに陥る事はないか 数字のリスクを優先させて工事を後回しにし、将来のモノのリスクを高め負の負のサイクルに陥る事がないか 工事の時期を決めるとは、その両者のバランスを取る事です。

3.42 工事サイクルとは
各建物設備機能や内装等のリニューアル工事は「サイクル」です。1度で終わりでありません。そしてこのサイクルをどう考えるかで100年200年といった長期での工事総額が大きく変わるからです。エレベータの例は次の通りです。

尚、工事サイクルは、同一各建物設備機能でも、素材や工法でサイクルが変わります。素材や工法の進歩で、サイクルが劇的に伸びるものもあります。(例えば給排水管が鋳鉄管から塩ビへ移行)

3.43 工事サイクルは、長期的な工事予算へ影響する
工事サイクルは、30年より長期の総工事予算に影響します。例えば上記の例でも、100年超で比較をすると相当の費用差が生まれます。これはエレベータだけですが、外壁塗装、屋上防水、キュービクル、消防設備、内装等全ての建物設備機能の更新のサイクルも同様に考えれば、100年超での差は、倍どころでは無くなります。だから工事サイクルは、
  • 建物全体を把握する
  • 将来の結果を考える
  • 工事の優先順位を考える
の上で、よく比較検討をして、考える必要があります。

3.44 工事サイクルとは、具体的にどのような状態か?
とはいえ工事サイクルは、数字だけでは決められません。現実にはそれは、どの程度の「経年劣化状態」を、リニューアルが必要な状態と判断するかです。例えば工事サイクルが短い順に次の通りです。
  1. 法定寿命
  2. 実寿命
  3. トラブルが1回発生したら
  4. トラブルが数回発生したら
  5. トラブルが頻発するようになったら
  6. トラブルの規模が重大になったら
  7. もうこれ以上は限界と言われるようになったら
  8. もうこれ以上は限界と何度も言われるようになったら
  9. 深刻なトラブルが頻発するようになったら

それぞれで、工事サイクル期間を割り当てる事になります。そこは建物管理者や専門の工事業者と相談をする所です。ビル資産所有者がこうした話をすると、それは建物長寿化を真剣に考えている証拠ですから、管理者や専門工事業者は喜ぶでしょう。

3.44各工事サイクルを引き延ばす検討とは
例えば自分でこの程度と思う「経年劣化状態」で30年分散修繕計画を組み立て、工事費用の削減も検討してみたけれど、どうしても工事予算が足りない。と言う場合、工事サイクルの引き延ばしも検討する事になります。その場合は、
  • どの建物設備機能の工事サイクルを引き延ばすか
  • どの程度の「モノ」のリスクは許容できると考えるか
  • 将来のリスクが高まりすぎないか
を丁寧に検討をします。

3.45 31年目に工事が集中しないように
工事の先延ばし、特に30年以降への先延ばしは、実際の場面では、一番手っ取り早い工事予算の削減方法です。けれど、工事が31年目に集中しては意味がありません。だから、工事を30年の分散修繕対象外に先延ばしをする場合には、該当建物設備機能状態のリスクももちろんですが、建物全体について、30年より少し先までよく検討をしなければいけません。

3.5 各工事予算の削減

電気、給排水、外壁塗装、エレベータ、消防設備、内装等、各建物設備機能リニューアル工事には、固有の検討ポイントがあります。そちらは後でご紹介します。 ここでは、建物資産所有者目線で、資本的支出工事で検討すべき、共通の予算削減ポイントをご紹介します。


3.51 ソリューションの選択
1つの問題対応にソリューションはいくつもあります。高額なもの、安価なもの、築古ビルとしてどの程度が必要か、適切なソリューションの検討も、工事予算削減には欠かせません。過剰なほど営業熱心な傾向があるだけに、自分でよく考えなければいけません。


3.52 工事業者のサービス水準
誰も教えてくれないけれど、工事費用インパクトが大きいのが、相談をする業者のサービス水準です。腕の良し悪しの話ではありません。

高レベルのサービスやマネジメントには、その分費用を請求されて当然だという事です。サービスやマネジメントの良さは、工事の「安心」です。「安心」はお高いのです。費用水準が低い業者に、高サービスを求める事は、「業者いじめ」と言います。

建設業者に相談をすれば、実績あるプロが工事内容を考え、プロが工事を監督し、手厚い説明とサポートで安心です。ただ工事総額の30%の工事監理費その他多くの管理費が発生して超高額です。自分でDIYで工事をすれば材料費だけ、または職人に指示すれば、+人足代で済み激安です。YoutubeビデオでDIY を学べる時代です。ただ工事内容を決めて材料を選び施工まで全てが自己責任です。どの程度が自分には望ましいか、決めるのは自分しかいません。

3.53 機能性能グレードを決める
ここも予算への影響が大きく、「ケチ」の腕の見せ所です。工事に際し、どのように工事をすべきかは工事業者が決める事ですが、その仕上がりの機能性能グレードをどの程度必要と考えるかは、工事発注側の判断です。例えばエレベータ更新でも、せっかくだからと内装のグレードアップや、震災時制御やらテレビモニターやらを付けると、相応に金額が嵩みます。空調にしろ消防設備にしろ、付加価値を付ければ費用が嵩みます。内装工事も、高級やデザインを追求すれば、費用は天井無しです。

機能性能グレードは工事業者に利益になる事と、後から足りないと文句を言われないために、余裕を持った提案になりがちです。この程度で十分。はビル所有者側が言うべき事です。日本の建物は設備機能グレード過剰が多いので、ここは予算の削減しどころが沢山あります。

3.54 素材等(耐久性等)を決める
素材、時に工法についても、予算と相談をして決まります。「どうせ工事をするなら長く使えるものを・・」は合理的に聞こえますが、 それだけの「高額費用」をそのタイミングで出す事が合理的か、も問題です。例えば屋上防水工事も、保証期間が5年、10年、20年と伸びると、相応に費用が増額します。

3.55 工事範囲
工事範囲も、予算削減の重要ポイントです。日本では「どうせ工事をするならまとめて行った方が、共通費が節約できる」と考えられがちですが、実は違います。中間費が増え、また使える部分もスクラップにする無駄があります。

例えば1フロアで漏水事故が頻発するから排水管を更新する際に、ついでだから全フロアを更新するのは、合理的に聞こえますが、他フロアは漏水事故もなく後100年使用できるかもしれません。工事規模が大きくなると、中間費も増額します。隠れ費用も増えます。建物使用者への影響が大きくなります。

3.56 耐震対策について
最後に耐震対策について、簡潔にコメントをしておきます。旧耐震基準建築建物の全てに「耐震性がない」ではありません。数百年に一度の大震災の激震地に当たり、地盤が悪ければ新耐震基準ビルでも倒壊します。 震災倒壊リスクは、地域と立地と地盤で大きく異なります。そしてもし耐震性に不安がある場合でも、通常揺れの方向及び不安箇所は限られています。だから多くの場合は、最低限の支柱追加等で足ります。現実的に判断をします。

3.6 リスクの分散を確かめる

ある程度納得ができる30年工事予算配分のリストが出来たら、リスクの分散を確かめ、必要に応じて調整を行います。これが「分散修繕」の名前の由来です。  

3.61 分散修繕の基本形に並べる
決めた資本的支出工事とその予算について、「工事予算を準備して工事を行う」の分散修繕の基本形で並べてみます。工事時期が、工事サイクルより多少前後しても構いません。
 

3.62 もし重要工事の重なる時期があったら
ここでもし重要な工事の工事サイクルが重なる場合どうすればよいのか?特にビルが築40年~築50年で今まで重要工事をしてきていない場合に、非常に頭が痛い問題です。ただ頭の痛い時期をやり過ごせば、その後はもっと自然に分散されます。やり過ごすための方法として、 一つのプランは、準備があれば、

  • 工事用予備資金を投入する。
さもなければ、
  • 重要な工事は少し早めに行っておく
  • 少し先に延ばせる工事は、工事サイクルの特例で先に延ばす
  • 工事規模を更に小さくして、より短い予算準備期間で工事ができるようにする
といった調整を行います。余計な金利支払いを作る借入金検討は、最終手段です。  

3.63 建物設備機能状態の色分けを活用して、物のリスクを確かめる
分散修繕の基本スタイルで数字のリスクは抑えられますが、物のリスクの確認も重要です。30年後だけではなく、途中の過程も含めて、高まる時期がない事を確かめます。

ここでは、建物設備機能状態の色分けが役に立ちます。赤を各建物設備機能のリニューアルトリガー時期を想定して、次の通りに色分けします。
無色:実耐用年数内
黄色:実耐用年数を過ぎて自分の決めたリニューアルトリガー状態まで
赤:リニューアルトリガー状態を超えている
と色分けをして、赤が増えすぎる時期が無い事を確かめます。赤が増える時期がある場合、 3.62 もし重要工事の重なる時期があったらで調節をして改善ができれば、調節をします。調節だけでは難しい場合は、もう一度3.3 工事予算の配分の検討に戻って、全体を見直します。

3.7 30年分散修繕工事計画を仕上げる

30年分散修繕工事計画は、それがある事に意味があるのではなく、作成を通して次の情報を読み取る事に意味があります。

  • どの程度の工事予算を毎年留保すべきか
  • 何の建物設備機能のリニューアル等資本的支出工事を行うか
  • (何の建物設備機能のリニューアル等資本的支出工事を行わずに済ませるか)
  • 工事サイクル=トリガーをどの程度に考えるか
  • 工事予算目線(機能性能グレード水準、範囲、相談する工事業者のサービス水準等)
 

3.71 30年分散修繕工事計画例の出来上がり 
そうして30年分散修繕工事計画の例が1つ出来上がりです。
 

3.72 複数のシナリオを用意する
とはいえ計画は、計画です。その通りになるとは限りません。なるべく色々な条件に対応できるよう、3.37 沢山のバリエーションを作ってみる3.38 更に将来ビル像もバリエーションを考える3.39 30年総工事予算の削減も検討するで検討した沢山のバリエーションの中から、他にも起こり得るシナリオで、いくつか、少なくとも松竹梅の30年分散修繕計画を作成しておきましょう。  

3.73 築40年~50年代で最初の山が過ぎたら後は自然にリスクは分散される
もし、30年分散修繕計画で予算削減に苦労したとしても、将来を悲観する必要はありません。山場時期を過ぎると、各重要工事サイクルが自然に分散されて余裕ができます。そうしたらもう計画なしに、様子を見て工事トリガーの時機到来を見込んだら、予算を準備し、工事内容も準備して工事を行う、分散が、自然にできるようになります。こうなれば、築古ビル長寿化はもう自然の成り行きです。  

3.74 現実の工事に向けて
30年分散修繕計画を作成したら、早速その年から工事予算の準備(留保)を始めましょう。 計画の時期が到来しても、該当建物設備機能がまだトリガーに至っていなければ、工事をする必要はありません。ただその後に重要工事が並んでいる場合は、早めに行っておきたい事もあります。どうするかは、該当建物設備機能設備の状態だけではなく、30年分散修繕計画を見渡して、建物全体の将来のリスクを考えて決めます。

そろそろトリガーと思える場合は、年単位で早めに相談できる専門工事業者探しをしておきます。多くの専門工事業者と話をして、相性のよい業者を探し求めましょう。時に数年かかる事も普通です。時間に余裕があるほど、提案もじっくり検討し、時間をかけて「必要」ではない工事内容を削減する事ができます。低予算を目指すなら、時間をかける事です。

3.8 建物長寿化プランも作っておこう

30年分散修繕計画の作成が出来たら、これを元に自ビルの分散修繕による建物長寿化プランを作成します。基本方針は既に決めてあるので、さほど手間もかかりません。  

3.81 建物使用者及び将来建物像は30年後の自ビルの延長を考える
30年分散修繕計画が出来たら、それを元に建物長寿化プランつまり、今後100年で、

  • 毎年どの程度の資本的支出工事予算を留保しておくべきか
  • いつ頃何の工事を見込んでおけばよいのか?
  • 各工事のトリガーや機能性能グレード・相談する業者のサービス水準をどう考えればよいのか?
の見込み表を作ります。正確な時期は必要なく、10年程度でまとめます。  

3.82 建物使用者及び将来建物像は30年後の自ビルの延長を考える
30年後も十分先ですが、今から50年後100年後の 建物使用者及びどう自ビルを使用するか、そこで何が求められるか、具体的に想像する事は不可能なので、30年後のビルをそのまま延長する事を考えます。  

3.83 30年分散修繕計画の対象外工事対象を確かめる
30年後の自ビル使用者が使用している自ビル像実現計画として、「2.26 洗い出した自ビル建物設備機能の方針を分類する」で確かめた、工事分類で、対象外だった工事対象を確かめます。


4.4 4.4 対象外だった工事対象を組み入れる
ここで「30年では工事しない(使用継続)」分類した対象について、(絶対必要/なるべく必用/できれば)の工事優先順位を付けます。ついでに4タイプにも分類をしておきます。  

3.84 優先順位が高い対象外工事対象にも、工事サイクル(トリガー)を割り当てる
優先順位が高い工事対象を決めます。そしてその工事サイクル(トリガー)を決めます。 相当期間使用ができるものは、仮として工事サイクルを110年にしておきます。 例えば排水管を鋳鉄管から塩ビに更新したら、やはりその先は110年でしょう。  

3.85 優先順位が高い対象外工事対象に、工事費用を仮決めする
工事費用も参考までに、仮決めしておきます。先の事だから、あくまでも目安です。30年分散修繕工事対象での各工事費水準を参考に、多め/少なめを決めておきます。  

3.86 30年分散修繕工事対象と合わせる
元の30年は工事しない(使用継続)分類の中で優先順位が高いに分類した建物設備機能と、 既に30年分散修繕工事で決めている工事対象とを合わせます。  

3.87 100年内に繰り返す工事の繰り返しも追加する
工事サイクルが50年未満の対象は、工事サイクルでの繰り返しを想定して、2回3回それ以上も加えます。  

3.88 10年単位の工事目安時期に分類をする
各建物設備機能工事対象を、工事サイクルに従って10年単位の工事目安時期に分類をします。  

3.89 偏りがあれば、調節をする
もし一時期に工事が集中するといった偏りがあれば、工事サイクルを確かめながら調整をします。調整方法は、分散修繕と同じです。 3.90 自ビルの分散修繕による建物長寿化プラン完成



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一棟築古中小ビル(一棟所有マンションも含む)資産所有者・経営者・後継者の方、現在ビル資産の長寿化は、まずビルオにご相談ください。管理会社や建設業者とは違う、自分の土地と建物資産を守る建物アセットマネジメントの視点で、低予算かつ将来リスクも高めない分散修繕の工事取り組みによる100年長寿化プラン作成、更に高効果で賃貸も継続する安定ビル資産経営、その他建物アセットマネジメント観点での賃貸、管理、建物、所有の問題解決、ビル資産管理会社の経営の助言等を、リーズナブルな費用で行っています。まず無料オンライン相談でお話をしましょう。ご要請に応じてご相談前に守秘義務誓約書を差し入れします。

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注意:資本的支出工事で相見積もりは厳禁

分散修繕対象のビル資産を維持するための資本的支出工事では、相見積りは厳禁です。現在費用節約を狙って現在のリスクを避けて、将来のリスクを上げる行為です。

ちなみに公共工事では相見積りを行いますが、役所が工事仕様書を作成します。時に工事仕様書を作成するコンサルタントを雇っています。そして安い業者に依頼したことを議会で説明するために行いますが、談合等問題が多い事はご存じの通りです。

けれども一般の私達は、工事仕様書など作成できません。そして「低予算」=必要以上の工事(内容)を省いて工事予算を削減するには、専門工事業者に考えてもらう事が沢山あります。ただその「考えてもらう」は無料ではありません。相手に考える時間、手間、そして何より貴重な知恵をサービスしてもらっています。これは相見積りをするなら、本来コンサルタントにお金を払って考えてもらう事が含まれています。

ところが、相手が手間と時間と知恵を費やして作成した見積書を、安易に相見積りと称して他の専門工事業者に見せたり、内容を話したりする中小ビル所有者が後を絶ちません。これが非常に問題になっています。

例えばそこでAという工事業者が考えた見積書を、相見積りと称してBの工事業者に見せれば、それはA社のアイデアをB社に流出させる窃盗行為です。B社はA社のアイデアをいただいた上で、アイデアを考える手間もなく、より安い見積書の作成ができます。ただB社もそんな人のために、良い仕事はしません。A社もB社も、将来にわたってそのような人は信頼しません。

相見積もりの背景にあるのは、「ぼったくられるのではないか不振」「相手を損させても自分だけは損したくない」という、業者不信です。それでは、工事業者と良い関係を築き、低予算でかつ良い仕事をしてもらう事は難しいでしょう。

本当に工事業者に、低予算で良い仕事をしてもらうためには、相見積は絶対に厳禁です。


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Ⅳ 主要工事の取り組みヒント

ここでは、主要工事取り組みのヒントをご紹介します。

5.1 電気設備・幹線

キュービクルある建物では、電気主任技術者と相談をします。キュービルのリニューアルが必要な場合でも、中の設備の必要部分だけを交換する、箱ごと総リニューアル等いろいろなやり方があります。もちろん後者が高額です。

近年電気使用量が増えて、増えた電気使用量に合わせて電気幹線も交換する場合もあります。

部屋の照明器具やコンセントは、内装リニューアルの際にリニューアルし、LED化もされていると思いますが、古いコンセントは火災リスクがあります。また蛍光灯は廃棄費用が高額になりつつありますから、あればどこかで更新をします。 忘れがちが収益ビルの子メータですが、法律上は、10年に1回交換です。

5.2 給排水管・設備

排水管漏水はよくあるトラブルです。昔の鋳鉄管や、ジョイント部分に鋳鉄管が使われているタイプでは、更に錆リスクがあります。 水使用量が多い居住用マンション・飲食ビルは、漏水事故が起こりやすいですが、水使用量が少ないオフィスビルは、さほど漏水事故は起こりません。

よほど酷くならない限り、ライニング工法(管更生)工事で対応ができます。ただ漏水事故が頻発する箇所では、該当横菅を更新します。

ビル・マンション等の給水は、昔は高置給水タンクが一般的でしたが、現在は多くの地域で、10階建てくらいまでは、直結増圧式が水道局に推奨されています。(時々対象外がありますが、給排水菅工事の業者に聞けばわかります。)高置給水タンクから直結増圧式にリニューアルをすると、建物内水質が良くなる上に、毎年の高置給水タンク清掃・保守・修繕費が発生しなくなります。ただ一方で、単純リニューアルとはならず、給水縦管を増圧に耐えられるものにリニューアル、ついでに排水縦管もリニューアル。また必要なくなった屋上高置給水タンクを地上に降ろす、その後を防水処理する・・等工事が不随して総額が高額になりがちです。やるにしろ、予算確保とタイミングは30年分散修繕計画で計画をします。

給水ポンプや排水ポンプは、定期的に壊れますから、その都度修繕費で交換します。

5.3 外壁・屋上

外壁は、マンションも含めて大規模修繕工事業者は数多くありますが、高額になりがちな一方で、サービスや考え方が千差万別で、業者を選ぶのも工事内容を決めるのも、大変難しい領域です。

外壁修繕工事には、雨漏り止める、美観を回復する、防水保護をする、の3つの目的があります。同時に鉄部やサッシ工事等を行う場合もあります。それぞれ何が必要か、どうすべきか、丁寧に話し合います。 市街地の防火地域の耐火建物で隣建物と隣接している場合建物は、前面だけで手入れで済む場合がほとんどです。(雨漏りがない限り)外壁タイルが古く、補修タイルが手に入らない場合、タイルの上から塗装する手法もあります。このあたりはアメリカでは既に3Dプリンタで安価に補修タイル作成ができていますから、3Dプリンタ修繕の導入を待ちましょう。

屋上の防水塗装は、既に行っていると思います。近年防水工法によって、10年や15年20年等がありますから、予算と相談をして選びます。防水工事は必ず保証があります。保証内容をしっかり確かめます。

5.4 エレベータ

エレベータのリニューアルは、やり方で費用インパクトが多いところです。だから慎重に考えましょう。

エレベータリニューアルの判断そのものの相談相手は、現在のエレベータ保守会社です。だいたい築30年を過ぎると交換を言われます。40年程度で保守部品保管期限が過ぎたという手紙をもらう事がありますが、部品はあるものです。(他の交換エレベータから取った部品が保管されています。)既存不適格を指摘される場合がありますが、これは違法ではありません。

ただしリニューアルに際しては、リニューアル費用+30年の保守費用の総額で考えます。

■会社を選ぶ
エレベータ会社には、メーカー系と独立系があります。前者は、三菱・日立・東芝・日本オーチス・フジテックの5大メーカー三菱や東芝といった大手メーカーです。独立系は、多くは保守会社ですが、自社でエレベータ開発をしている会社や外資もあります。両社を比較すると、メーカー系は高額で独立系はかなり経済的です。

■工事内容を選ぶ
エレベータのリニューアル工事は主に2つのやり方があります。基盤交換と籠ごと交換です。前者は、経年劣化するのはエレベータを制御する基盤だから、その基盤だけを交換します。ただ数十年たつとエレベータ内部も汚れてきます。新しい地震制御や緊急通話等の追加もしたい。すると籠ごとすべて全交換することになります。もちろん後者の方がはるかに高額です。

■その後の保守メニューを選ぶ
エレベータ保守には、フルメン契約(フルメンテナンス)とPOG契約があります。フルメン契約では、故障の際の対応や(軽微な)交換部品がすべて込みです。POG契約は、故障の際の対応を都度修繕工事費として支払います。ただしフルメン契約は、毎月のエレベータ保守費がPOG契約と比べて、はるかに高額です。エレベータリニューアルの際は、その後の保守について、両方の費用を聞いて、それぞれの30年総額を比べて、どちらにするか選びます。例えば30年総額で、フルメン契約の方が1千万円よりはるかに高い場合、それでもう1回エレベータリニューアルが出来る訳です。

5.5 内装工事

日本では内装工事もすぐに、内装工事業者にお任せですが、本場ヨーロッパや他国の一般のビルやマンション、戸建て住宅所有者は、内装工事のかなりを自分でやります。建物内部のリフォームを、必要なところだけ職人さんを雇って、住みながらすべて自分で工事をする人も少なくありません。現在では、工事のやり方を教えるyoutubeプログラムも沢山あります。

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はじめに:日本もストックの時代:時代が、建物資産を守り引き継ぐ時代に反転した
→ 低予算で将来リスクも高めず日本の建物長寿化を実現する分散修繕
→ 建物を延命し賃貸も継続する安定ビル資産経営 
→ 築古ビル資産問題解決に欠かせない2つの視点

一棟築古中小ビル(一棟所有マンションも含む)資産所有者・経営者・後継者の方、現在ビル資産の長寿化は、まずビルオにご相談ください。管理会社や建設業者とは違う、自分の土地と建物資産を守る建物アセットマネジメントの視点で、低予算かつ将来リスクも高めない分散修繕の工事取り組みによる100年長寿化プラン作成、更に高効果で賃貸も継続する安定ビル資産経営、その他建物アセットマネジメント観点での賃貸、管理、建物、所有の問題解決、ビル資産管理会社の経営の助言等を、リーズナブルな費用で行っています。まず無料オンライン相談でお話をしましょう。ご要請に応じてご相談前に守秘義務誓約書を差し入れします。

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