マーケティング賃貸は、地域賃貸マーケットを理解しその中で自ビルを選んでくれる可能性が高いターゲットテナントを特定することで、ターゲットテナントに向かって効率的に賃貸を成功させる方法です。
日本では一般に新しい物件が好まれて古い物件は選ばれないと考えられがちですが、ご存知の通りに賃貸はそう単純ではありません。
確かに新しい物件は、新築プレミアム付きの高い賃料で早期にテナントが決まりやすいですが、実際には条件が合えば賃料が安く居心地が良い築古物件を好むテナントは少なくありません。
ただし自ビルの状件と合う条件を求めるテナントは、ニッチです。そのニッチなテナントに自ビルの条件をしっかり伝えるためには、築浅と比べて一手間ひと工夫が必要です。これを不動産屋に「お任せ」では、難しいのは当然です。そこで自物件を最もよく知っているビル所有者も正しく賃貸マーケティングを理解し、一手間ひと工夫に協力をすることで、不動産屋の営業効率を上げ、自ビルにテナントが決まりやすくするのがマーケティング賃貸です。
マーケティング賃貸ができるようになると、空室がでた時の賃貸は、不動産屋に「お任せ」テナントを連れてきてくれるのを待つだけの「待ち」ビジネスから、ビル所有者が自らマーケティングを行い不動産屋に営業をしてもらう「動」ビジネスとなります。
また共用部のリフォーム等を行う場合でも、リフォーム業者の提案に「お任せ」ではなく、ターゲットテナントに選ばれる改善を「主体的」に行うことができるようになります。
マーケティング賃貸は、賃貸マーケティングに基づくビル所有者の空室に対するテナント誘致活動の全てを含みます。 対不動産屋のリーシング強化のみならず、対リフォーム/内装工事業者への賃貸強化工事等も含まれます。また時に現在の賃貸マーケットに見切りをつけて、用途変更やオペレーション導入等マーケット変更も含みます。貸室にテナントを誘致して賃料収入を得るビジネスのすべてが含まれます。
賃貸マーケティングはマーケティング賃貸のコアです。
賃貸は、地域の賃貸マーケットで決まります。どんなに立派なビルでも地域に需要がなければテナントは入りません。地域の賃貸マーケットの現在を知り今後の動向を予測することは、ビルを長くもつ中小ビル所有者にとって重要です。
賃貸マーケティングでは、ビル所有者は、賃貸マーケットで評価されている自ビルの特徴を、自らも客観的に評価します。そして賃貸マーケットの中でのポジショニング、自ビルの特徴を選ぶ可能性が高いターゲットテナント像の理解、ターゲットテナントが自物件と一緒に比較検討をする可能性が高いライバル物件を認識します。
地域賃貸マーケットは、定義があるものではなく切り口によって地域の広さや物件タイプも様々です。地域賃貸マーケットの感覚は、日頃からなるべく多くの不動産屋と多く話をして養います。
ビルの特徴には、変えられない基本特徴と変えられる特徴があります。特に基本特徴は大切にします。
ターゲットテナントは、地域賃貸マーケットの中で、自物件の特徴を選ぶ可能性が高いテナント像です。個人の好みであったり、会社の規模、業態、事業内容、社員の特徴等であったりします。
ターゲットテナントは、過去の自ビルの入居者や地域の傾向、不動産屋の意見等を参考にします。一棟のビルにターゲットテナント像は1つとは限らず多数あるのが普通です。
ターゲットテナントはなるべく細かく具体的に思い浮かべます。理解が足りずぼんやりしていては、不動産屋等に伝わりません。
ポジショニングは、賃貸マーケットの中で賃料相場の位置です。一般に募集賃料は、ライバル物件との比較で決まります。ただし賃料は賃貸マーケットで決まるとはいえ、分散修繕計画で見込んでいる賃料よりはるかに低いとなるとそれは問題です。この場合は賃貸営業で初期条件の工夫をしたり、賃貸対策のための内装工事等が必要です。
ライバル物件は、同じターゲットテナント像をターゲットテナントとするビルです。通常築年数や広さ、ビルのグレード等が共通しています。ライバル物件が把握できていると、賃貸がずっと楽になります。
賃貸マーケットで自物件のポジションを検討している時に、もう少しここを改善したらポジションを上げられる、ライバル物件との比較で競争優位に立てる、と感じることは少なくありません。
賃料アップ/早期入居を目的とした改装は、費用対効果があることが前提です。
賃貸マーケティングができていると、自物件の特徴を生かし、かつターゲットテナントの目線で見てライバル物件より競争優位に立つためには、何をどうすることが効果的か、具体的にわかるようになり、費用対効果が劇的に上がります。
リフォーム業者に指示を出したり、リフォーム業者を使わずにDIYや内装工事業者で仕上げたりすることもできるようになります。
賃貸マーケティングができていると、ビル所有者は不動産屋に対して、単なる「お願い」ではなく自物件にはどのような特徴があり、地域賃貸マーケットの中でどのようなターゲットテナントに選ばれやすいかを具体的に話し合う事ができます。また過去の成功事例があれば、その時の営業方針についても話し合うことができます。 その結果、マーケティング及び営業の「パートナー」関係を作り、積極的な「動」の賃貸を展開し、テナントを引き寄せることができます。
より具体的には、
それぞれの小さな工夫の積み重ねが結果を作ります。
注意をすべきは、マーケティング賃貸は、ビル所有者がマーケティング知識を蓄えて上から目線で不動産屋を動かすということではないことです。マーケティング賃貸は、ビル所有者がマーケティング知識を蓄えることで、不動産屋とチーム関係を築き、一緒に頭を絞れるようになるということです。
賃貸は、賃貸仲介業者一人一人で賃貸スタイルが違います。その人の得意や環境も常に変わります。その時々で自ビルと自分にあった元付不動産屋が見つかるように、常に不動産屋探しのアンテナは貼っておきます。
特に大きな工事を伴う用途変更を、リノベーション業者や建築士に勧められたという理由で考えるビルオーナーが少なくありませんが、用途変更は、現在用途の賃貸マーケットの動向と変更後用途の賃貸マーケットの動向を冷静に分析して、変更するかどうかを決めるものです。こうした賃貸マーケット分析は、リノベーション業者や建築士にはできません。ビル所有者が責任を持って検討すべきものです。