1.中小ビル維持思考の分散修繕とは
分散修繕は、築古中小ビルの使用維持に必要な設備更新工事等に取り組む方法です。
一般のリノベーションや大規模修繕工事・大規模改修工事等は、ビル工事を数十年に1度にまとめて行います。経験豊富な建設業者が工事の設計監理をするため、依頼側は楽ですがそうした費用が乗るために大変に高額です。
これに対して分散修繕では、ビル工事取り組みをビル所有者が自分で「考え、決めて、建物を維持する」です。
分散修繕の分散とは、予算とリスクの分散です。これをビル所有者が考えます。自分の資産を守るのは自分です。だから自分の資産を守るために、自分で捻出できる一定期間のビルの総工事予算を考えて、何の工事から優先して予算を配分するかを、自分で決めるのです。決めるのは工事業者ではないのです。
分散修繕が出来ると、リノベーションや大規模修繕工事・大規模改修工事等とはけた違いに少ない工事予算で、ビルが維持できるようになります。この維持思考の分散修繕は、ビルの本場欧州や世界の中小ビル所有者がごく普通に行っている築古ビル維持の取り組みです。だから特別難しいものではありません。
とはいえビルの工事を、所有者が好きに考えて好きに決めて良いわけはありませんから、そこに、管理者や専門業者の意見や提案を参考に、ビル所有者として「考える事を考え、決める事を決める」ための「フレーム」があります。
これをここから見ていきますが、その前にビル寿命の意味を確認しておきます。
2.ビルの経済的寿命と物理的寿命
はじめにでもご紹介していますが、日本でビルが寿命と言う場合、実際には物理的寿命と経済的寿命があります。
物理的寿命は、廃墟ビルが例ですが、電気や給排水等の基本インフラ機能が無く、また事故の危険が高まりビルが使用できない状態を言います。
経済的寿命は、維持に必要な工事費用を捻出できない場合、もしくはこの古いビルに、維持に必要な工事資金を投下する価値がないと考え、実際の物理的寿命になる前に、物理的寿命になることを想定してビルを諦める場合です。日本でビルが寿命と言う場合のほとんどは、経済的寿命です。

日本最古の鉄筋コンクリート造建造物である、1916年(大正5年)築軍艦島のマンションが未だ存在している通り、鉄筋コンクリートの躯体そのものは半永久的です。ただビルは電気・給排水等の基本インフラ機能を維持し、また衛生と安全状態を管理できなければ、使用ができません。これら維持のための工事費用をかけなければ、物理的寿命に陥ります。
ビルが物理的寿命に陥る場合、その理由はより前段階で「ビル所有者が」ビル維持に必要な工事を行わない「判断」「判断」をしたからです。技術はあります。
そして多くの場合、ビル維持に必要な工事を行わない「判断」をする理由は、工事費用を捻出できない、もしくはこの古いビルに、維持に必要な工事資金を投下する価値がないと考えるといった経済的理由です。つまりビル所有者がビルを「経済的寿命」と考え、取り壊して建替え/再開発という再投資を行わない場合に、「物理的寿命」となるのです。

ビルの寿命は、ビル所有が決めていることなのです。
3.延命と維持の違いを明らかにしておく
「ビルの建物設備が老朽化して改修工事が高額だから、建替えを決めた」は良く聞く話ですが、そもそもなぜこのビル所有者は、どうすれば、もっと費用を抑えてビルの老朽化設備を更新できるかを考えないのでしょうか?
最近は、「ビルの建物設備が老朽化して建替えを検討したけれど、無理そうだからビルを朽ちるまで使う事にした」という声をよく聞くようになりましたが、これでは延命しかできないでしょう。
ビルの「延命」と「維持」の違いは、次の通りです。
ビルの「延命」 | 高額な工事や面倒な工事は行わないことで経済的寿命を避け、修繕等を繰り返して物理的寿命になるまでビルを使う |
ビルの「維持」 | 経済的寿命に陥らない予算で、ビルの使用継続に必要な工事を行い、ビルを物理的寿命にもしない。 |
「延命」の問題は、ビルがどのくらい長く使えるか予測ができない事です。将来の見通しが弱気では難しい工事に取り組めません。また例え現在はある程度の修繕資金の用意があっても、先が見えなければ今後どの程度の準備が必要なのか、分かりません。将来いずれ準備が無理だと感じたら、そこでやはり「寿命」だということになります。
これに対して
「維持」は、100年200年それ以上長く使用して利益を得る事を想定しています。ビルには100年200年それ以上長く使用する価値があるとみていれば、長い目で工事取り組みを考え、また工事費用の削減を考えるようになります。日本人は、「ビルの事は分からないから建設業者や工事業者の意見を取り入れる」姿勢がありますが、それでは積極的にビル側の利益を守ることができないのです。維持思考の分散修繕は、ビル所有者が自分の資金事情に合わせ、優先順位をつけて必要な工事は行います。だからビルを経済的寿命にも物理的寿命にもしないのです。