リノベーションは大資本や不動産投資家の手法です。一般の中小ビル所有者は、時代や社会経済の波を乗り越え、分散修繕で世代を超えて数世代でも安定維持を続けています。その分散修繕とは、どのようなものなのでしょうか?
ところでこれから分散修繕をご紹介するにあたり、先に強調しておきたいことがあります。それは分散修繕はハードの問題解決テクニックだけではないということです。分散修繕は、ソフトの問題を解決できます。その結果として、ビルの建物と建物設備というハードを維持できるのです。
大資本や不動産投資家は別として、一般の中小ビル所有者が古いビルを維持するためには、次の3つが必要です。
より具体的には3つの責任、4つの安全、3つの安定が必要です。
なぜ建物設備が老朽化したら、更新工事が必要なのか?なぜ排水管の漏水が続くと放置ができないのか?なぜ外壁が経年劣化で剥離しそうになったら放置できないのか?それは事故を起こして誰かを傷つけてはいけないからです。また設備停止等でテナントのビジネスに損害を与えるわけにはいかないからです。そしてビル所有者は、ビルを適切に経営してビルを価値ある収益資産として維持する責任もあります。赤字を垂れ流す負債にしては、家族に対する責任が果たせません。当然とお考えと思いますが、ビルの築年数に関わらず、この3つの責任を保てることはビル所有の必須条件です。
短期的に空室が増加したり、建物設備の不調が続いたり、赤字になったりすることはあるでしょう。時に避けられない不慮の事故もあるかもしれません。そこで早期に4つの安全が回復できればビル所有を続けられますが、今後4つの安全が見込めなければ、ビル所有者としての責任を果たせると思えなくなります。これ以上ビルの維持は難しく感じてしまいます。
安定は築浅では問題ありません。しかし築40年をすぎると難しくなってきます。またビルを多数所有していたり他に収益が高い事業があったりして、経営悪化時でも資金補填ができる場合はそう問題になりません。リノベーション投資もできます。けれども自ビルの収益でビルを維持している中小ビルにとっては、「安定」は欠かせない条件です。 なにしろ去年は十分な賃料収入があったけれど、今年は大赤字、来年はわからない・・・では、ビルの将来が不安になります。安定が維持できなくなると、ビルを長く維持できなくなるのです。
ビル所有者には、「投資」と「安定」の二つの札があります。その時々の社会経済情勢や環境・条件に応じて「投資」と「安定」の二つの札を使い分けることで、永続的に資産を保ち、機を見て発展ができます。
建設業者の大規模修繕・大規模設備改修は、安定は維持できず赤字をつくり賃貸効果も不確かです。
建設業者と不動産業者がタッグを組むリノベーションは、これも赤字を作り、安定ではありません。リノベーションは投資によりバリューアップを狙う投資手法だからです。
業者が作る長期修繕計画表では、建物の責任は果たせますが賃貸効果は分からず赤字になるリスクも十分にあります。
かといって問題があったら対応するだけでは、見えないところで進行し突然起こる大事故(外壁落下や漏電火災等)を防げるかどうかが不確かです。全ての責任をどこまで維持できるか、安全と安定がどう維持できるか、出たところ勝負ではやはりリスクが高すぎます。
ビルの理想の分散修繕は、ある重要工事に向けて一定金額の資金を内部留保し、資金準備ができたところで工事をします。工事が終わると次の重要工事に向けて、一定金額の資金を内部留保し、資金準備ができたところで工事をします。このサイクルが続く限り、ビルは赤字になりません。
しかしわかると思いますが、実際にこれを行うためには多くのことを考慮する必要があります。
普通に考えれば築古ビルは賃料収入が減少する一方で建物設備等工事費用は激増します。これを絵に描いた餅にせず「・赤字にしない・事故を起こさない・賃貸を継続する」を維持するために、分散修繕には次の3つの秘訣があるのです。
賃料の安い築古ビルに新築同様の設備機能や高級内装を求めるテナントはいません。現在のビルをベースにシンプルビルに向かう分には、建設業者や建築士でなくても、ビル所有者でもどのようなテナントに選ばれるシンプルビルになれるかを考えることができます。
高額の工事監理費を削減できるからです。分散修繕では単に赤字を作らないだけでなく、大きな変化を作らないため、経営は安定し、テナントへの影響も最小です。思わしくなければいつでも方針変更ができます。4つの安全と3つの安定の全てが実現できます。ちなみに分散修繕の対象工事は、会計上も資本的支出として減価償却ができます。
分散修繕の輪が回る間はマイナスのスパイラルに陥りません。
特に重要になるのは、大きな工事やリニューアルをするタイミングです。けれども必要性とタイミングの判断や予算準備、その前に賃貸でしっかり賃料収入が取れているためには、大きな工事が必要になってから初めて考えるのではなく、築30年を過ぎたらなるべく早めに30年分散修繕計画の作成を始めることをお勧めします。
の合理的な賃貸と工事のメソッドがあります。詳しくはそれぞれのご紹介ページで見ることができます。
ビルの駆体倒壊リスクに関しては、 環境リスクとして地域の大震災被災確率、立地の激震地確率、立地の土壌が弱い確率の3つがあります。ビルの耐震性能云々以前に、これらの状件が重要です。懸念があれば検討は必要です。ただ東京の商業地であれば建蔽率が100%でビルは密集して建っています。簡単に大きく左右に揺れて倒れることはありません。
ビルの耐震性に関しては、旧耐震基準建築では震度5強程度耐震性があることしか確認されていないので、耐震性がないと言われますが、確認されていないだけで耐震性がないわけではありません。東日本大震災時に東京23区においてもほぼ全ての区で震度5弱以上を観測しています。そこで体力壁の亀裂等の大きな問題が出なかったビルは新耐震基準相当の耐震性があると言えます。また耐震性は方向や内壁有無でも異なります。一般の耐震診断では信頼性が低いため、自ビルの形状や過去の大きな地震時の状況をみて判断をします。
より問題は落下リスクです。軽微でも地震による天井落下、窓ガラスやサッシ落下で人命が失われるリスクは常にあります。これはビルの耐震性ではなく建物設備機能の経年劣化が原因です。程度を判断して経年劣化が認められれば、分散修繕で対応します。