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日本人は、住宅を、マンションを、ビルを、社会的インフラストラクチャー等を、築40年築50年ともなると、老朽化だ寿命だ建替えだと言う。ところが近年は、人口激減で需要が無くなり、建替え投資ができず、空き家やシャッター街、ビルやマンションの老朽化、公共施設や社会的インフラストストラクチャーの老朽化が、社会問題になって久しい。街づくりやコンパクトシティー化といった言葉も盛んだ。しかし一度目を外に転じると、英欧米や他国では、住宅もマンションもビルも、道路、交通機関、上下水道、等の社会的インフラストラクチャーも、50年100年どころか数百年でも問題なく使用している。すると問題は、なぜ長く使用できるのか?その経済的合理性はどこにあるのか?日本の住宅、マンション、中小ビル、社会的インフラストラクチャー等も、長く使用する事はできないのか?である。日本で初めて、この問題を解き明かす。
また都市計画法(昭和43年)都市再開発法(昭和44年)施行から50年以上が建ち、早期に建てられた住宅、マンション、中小ビル、その他社会的インフラストラクチャーが築50年前後に到達するようになった。
ところが私達日本人の、築古建物に対する方針は、昭和時代から変わらない。特に(大資本や公共機関ではない)個人所有の住宅、マンション、中小ビルは、築40年~築50年ともなると、当たり前に、
所有する建物について、「損」をしたくないと考えるのは、当然だ。どうせならば、一番「利益」な方法を選択したいと考えるのも、当然だ。では古い建物をどうするのが、最も利益か?それを考えるのが、不動産アセットマネジメントだ。もちろん考え方がある。
所有する建物について、「損」をしたくないと考えるのは、当然だ。どうせならば、一番「利益」な方法を選択したいと考えるのも、当然だ。では古い建物をどうするのが、最も利益か?それを考えるのが、不動産アセットマネジメントだ。もちろん考え方がある。
2.1 アセットマネジメントとは
アセットマネジメントは、基本は「新築/取得した資産(アセット)で、どうすればベストな利益総額を得られるか?」という、誰でも当然に考える事の考えと実践だ。(新築/取得の投資に当たっては、その見込みで投資を判断する。)
アセットマネジメントの重要な点は、問題は目の前の収入が大きいかどうか、ではない事だ。
アセットマネジメントが考える利益は、最初の投資に対するリターンの積み上げ総額で、期間は様々だが、最後にEXITするまでの期間となる。
2.2 アセットマネジメントは機会とリスクのマネジメント
通常アセットマネジメントを言う場合は、過去の結果の分析ではなく、これから将来に、
「新築/取得した資産(アセット)で、ベストな利益総額を実現する」ために、
建物の延命を考えるには、建物の寿命とはどういう事か、正しく理解しなければいけない。日本の建物や建造物は、築40年築50年で老朽化だ寿命だと言われる。けれどどのように建物寿命になるか、理解している人はほとんどいない。そこでまず「建物」とは何かの理解を深め、それから建物の寿命とはどういう事か、深く考えてみる。
3.1 建物とは建物は建物躯体と多くの建物設備機能の集合体
建物という「物」は、1軒、1棟、といった単位で扱われる。けれど実態の建物は、建物躯体と多くの建物設備機能群の集合体だ。建物設備機能群には、外壁保護の塗装・タイルから、給排水管、設備、電気設備、空調、エレベータ、外壁断熱等から、耐震性能も含まれる。

つまり人が使用する建物は箱ではなく、多くの建物設備機能群が機能して、人が生活したり仕事をする空間を作る。ちょうど一人の人間が、多数の臓器や血管、皮膚等が機能して、生きているのと同じだ。
3.2 建物老朽化とはどういう状態か
日本では、建物や建造物が築40年築50年で老朽化と言われる。そして老朽化だから寿命だと言われる。この老朽化とは、建物を構成する建物設備機能群の少なくない数で経年劣化が進行して、建物の見た目や機能が明らかに劣化した状態を指す。
しかし、住宅の梁や建物躯体は丈夫だ。鉄筋コンクリート造建物では、コンクリート寿命が言われるが、通常は、塗装もしくはタイルで保護されていて、保護機能を維持すればそうそう劣化しない。
問題は外壁保護機能他、建物を構成する建物設備機能群の各々で、ライフサイクルが短い事だ。40年50年すればいくつも建物設備機能が経年劣化し、個別建物設備機能の老朽化が増えると、建物自体が老朽化と呼ばれるようになる。
とはいえある日突然、建物の建物設備機能の全てが機能しなくなったり、建物が倒壊する訳ではない。軍艦島の廃墟マンションは1916年築で放置されたまま築100年を経過しているが、まだ倒壊していない。
3.3 建物延命とはどういう事か
一方で、では建物の延命とはどういう事か。建物延命とは、建物の中の経年劣化した建物設備機能を新規リニューアルし、機能性能を回復して存続する事を言う。
建物は人間と違い、劣化した臓器内臓や皮膚や血管を交換する事で、生き続けられる言えよう。この交換は何度でも可能であり、アップデートも可能だ。だから、築100年築200年でも、使用出来ている建物は使用が出来ている。
3.4 旧耐震基準建築である事や地震国である事は、建物寿命とは関係ない
ところで日本では、旧耐震基準建築建物は、建替えなければいけない。日本は地震国だから建物短命は仕方がないと言われる。しかし、整理をしよう。旧耐震基準建築である事や地震国である事は、建物寿命とは関係ない。世界中で地震国は日本だけではなく、環太平洋地域や大陸内陸部の特徴である。日本全国一律に数百年に一度の巨大地震のごくわずかな激震地に見舞われるリスクがあるのではなく、また該当地域でも、被害程度は地盤が関係する。新耐震基準建築でも地盤が悪ければ倒壊し、旧耐震基準建築建物でも、耐震性がある建物は多く、耐震補強技術もある。結局耐震性は、個別に判断されるべきものである。なんでもみんな一緒一律に判断したがるのは、日本人の悪い癖だ。
3.5 建物寿命とは、延命が選択されない事
つまり、建物の建物設備機能群は経年劣化するが、リニューアルし延命する事ができる。どのような建物・建造物であれ、延命は可能だ。ところが「延命が選択されない」時、その建物は寿命となる。
3.6 日本の建物・建造物の多くは、経済的寿命
現在の日本で建物が選択されない理由は、「1.5 延命・長寿化の利益とデメリットは何か」で述べた通り、延命・長寿化に利益があると思われていないからである。つまり経済的寿命だ。
昭和の建替え適格時代は、
・建替えや再開発投資をした方が、より大きな利益を得られる
だったから、日本では「延命・長寿化に利益」の考えが育たなかっただけでしかない。
また日本では建物延命というと、高額リフォーム・リノベーション、大規模改修工事、再生工事といった、建設業界の建替えに準ずる高額ソリューションが言われるため、
建物延命で得られると期待できる利益<延命工事の費用
と考えてしまう事も、建替えや再開発投資をした方が利益という考えを強化してきた。
日本の住宅、マンション、中小ビル他建物は、経済的理由で寿命になる。つまり、建物は「物」だが、所有者にとっては単なる「物」ではなくお金をかける価値があるかどうかを問題にする「資産」なのだ。そして建物が資産ではないとは、負債だ。建物は負債になると、持ち続けられない。負債化を恐れて、経済的寿命にしてしまうほど、建物が資産であり続ける事は、建物延命の条件だ。この資産の認識は非常に重要だ。
4.1 建物・建造物は物だが、所有者にとっては資産
建物・建造物は、物だが、所有者にとって、資産である。
建物が資産とは、
建物延命で得られると期待できる利益>延命工事の費用
である。
分散修繕である。これを理解するために、まず建物は資産でなければ維持できない事、それから建物延命の利益と費用を考えるために、「利益の考え方」として「建物アセットマネジメント」を、及び建物延命の費用の考え方として、「資本的支出工事」を学ぶ。更に留意すべき「リスク」を学ぶ。そしてようやく、具体手法として住宅・マンション・中小ビルを永久資産にする「分散修繕」の考え方を学ぶ事ができる。
4.2建物資産は、土地と一体の資産
この建物資産は、土地と一体で土地の価値を実現する資産という性質を持つ。日本人は土地こそ資産と考えるが、土地はそれだけでは利益も生まない。現在では市街地の土地の価格も、土地の上の建物の収益価値で評価される(収益還元法)通り、建物の使用価値は土地の価値をも決める。そして建物が負債になると、土地も手放す事になる。
4.3 建物資産の価値はどこから生まれるか
建物の資産価値は、建物使用者の使用の利益で決まる。(建物築年数とは関係ない。)
この使用の利益は、賃貸の場合は賃料収入から諸費用(管理費、修繕費、公租公課、火災保険、借入金返済等)を差し引いた残りとなる。
自宅や自用の建物の場合は、賃貸した場合に支払うべき賃料を、賃料収入と見做し、同様に計算をする。これは、その物件を賃貸した時に支払う賃料を支払わずに済んでいる事が賃料収入と仮定する。では、この賃料収入がどう決まるかというと、これは地域賃貸マーケティングで調べる事になる。これについてはまた後で触れる。
4.4 建物が資産ではなくなるとは、負債になる事
建物資産観が重要な理由は、建物が資産ではない、つまり
建物延命で得られると期待できる利益<延命工事の費用
では、建物が負債になるからだ。
4.5 所有者にとっては建物は資産でなければ延命ができない
建物が負債になれば、土地も価値を失う。誰も長く持ち続けられなくなる。
だから住宅、マンション、中小ビル所有者にとっては、建物が資産であり続ける事が延命の必須条件だ。つまり建物延命とは、建物を負債にしない事であり、また
建物延命で得られると期待できる利益>>延命工事の費用
が成り立つ事だ。しかし、建物延命のための、建物設備機能のリニューアル費用は、時に少なくない。そこでそもそも「延命工事の費用」と「建物延命の利益」の両方について、どう考えるかが問題となる。
4.6 英欧米や世界の他国の建物所有者は、経済的寿命にせず資産として維持する
つまり、英欧米や世界の他国の古い建物が長く使えている理由は、建物所有者が、所有する住宅を、マンションを、中小ビルを経済的寿命にせずに資産として、延命を続けるからだ。もちろん個別では負債化もあるが、基本は、分散修繕で、
建物延命で得られると期待できる利益>>延命工事の費用
とし、建物を負債にしない。これを実現するための、延命工事の費用の考え方があるのだ。
建物「延命工事の費用」を考えるための重要な概念が「資本的支出工事」だ。「資本的支出工事」は、建物資産の寿命を延ばす工事を指す会計用語だ。会計を学ぶ必要はないが、建物延命にあたっては、通常の修繕工事との違いの理解は欠かせない。ここでは「資本的支出工事」の意味と、建物を資産として維持するための「資本的支出工事」の留意点を考える。
5.1 建物の資本的支出工事とは
建物の寿命を延ばす工事を、会計用語で、資本的支出工事と言う。具体的には、
資本的支出工事とは、建物の使用可能期間(建物の寿命)が延長し、(工事をしない場合と比べて)資産価値を高める工事と定義される。
5.2 資本的支出工事の会計的特徴
資本的支出工事は、会計的に「資産の追加取得」と考え、次の図の通りの特徴がある。



ようやく、建物アセットマネジメントに戻る。建物アセットマネジメントは、建物が古くなったらどうしようかと考える不動産アセットマネジメントの中で、「3建物の使用を継続しながら、必要な個所を都度リニューアルする」建物延命方法だ。
建物延命の方法としては、
ⅳ)建物延命(一度に建物を全てリニューアル)
ⅴ)建物延命(建物の使用を継続しながら、必要な個所を都度リニューアル)
があるが、>ⅳ)の建物を空にして一度に建物を全てリニューア手法とは、フル・リフォーム、リノベーション、大規模改修工事、再生工事等は大資本や不動産屋の、セルフ・リノベーションは費用を抑えたい個人の、売買時や建物が空になる機会があった時だけに出来る、バリューアップ投資手法だ。
これに対してⅴの建物を使用を継続しながら必要な個所に都度資本的支出工事を行い、建物を延命する方法は、現在住宅、マンション、中小ビル等建物を資産として使用し利益を得ている建物資産所有者にとって、もっとも現実的に建物を負債にせずに資産として維持できる。
6.1 建物アセットマネジメントとは
建物アセットマネジメントは、建物に特化し、建物の使用を続ける事を前提として、「新築/取得した資産(アセット)で、どうすれば建物使用を続けてベストな利益総額を蓄積できるか?」と、使用収益(インカムゲイン)の蓄積の最大化を考える。
6.2 建物アセットマネジメントとしての建物延命
改めて定義をすると、建物アセットマネジメントとしての建物延命で考える事は、どうすれば、「建物延命の利益」が続くか? つまり、会計サイクルで使用利益を産む状態を継続させる事だ。

これが続く限り、建物は使用利益を産む資産であり続ける。長く続ければ続ける程、最初の新築/購入からの利益は積み上がり続ける。だから建物アセットマネジメントとしては、この使用利益を産む会計サイクルを可能な限り長く続ける事が、目標となる。
6.3 建物アセットマネジメントとしての建物延命の利益は長期で考える
建物アセットマネジメントが考える使用利益は、実務上、現在から将来に渡る長期の利益機会だが、過去の利益は確定だから、建物アセットマネジメントが考えるのは、現在から先の将来の建物使用利益である。つまり、
建物延命で得られると期待できる利益>>延命工事の費用
の建物延命の利益とは、1年2年の利益ではなく、10年20年30年の長期利益で考えなければいけない。すると例えば、資本的支出工事の効果が、1年目は高利益だけれど数年で利益が下がるといった短期利益のものは効果が高いといえず、本当に長期効果がある工事だけが評価される。また一時的に赤字になる事があっても、長期的に黒字に戻り使用利益を産む見込みが高ければ、建物を諦める必要もない。
6.4 建物アセットマネジメントと管理(プロパティマネジメント)の違い
建物アセットマネジメントの建物延長の利益は、長期で考える。実はこれこそが、建物アセットマネジメントとプロパティマネジメントの違いだ。そして建物の将来は建物アセットマネジメントで考えなければいけない理由だ。
プロパティマネジメントは、今年のBSの建物資産から、1年間の利益のベストを実現する。賃貸物件であれば、リーシングを成功させ、建物問題を解決し、費用削減に取り組む。これに対して建物アセットマネジメントが考えるのは、所有するアセット(建物資産)の所有期間全てを通して、どうやってベストな総利益にするか、だ。単年度ではなく、保有期間での利益合計のベストを考える。
会計的に言えば、プロパティマネジメントはPLだけを考え、建物アセットマネジメントは、BSとPLの両方を考える。
6.5 建物アセットマネジメントの資本的支出工事は、資産所有者が判断する
そしてもう一つの建物アセットマネジメントと管理(プロパティマネジメント)との違いが、管理(プロパティマネジメント)は管理者や管理会社等に任せる事ができるが、建物アセットマネジメントを考え、判断するのが、建物資産所有者しかいない事だ。つまり、建物アセットマネジメントの資本的支出工事は、建物資産所有者が、どうするか考え、自己責任として決めなければいけない。
6.6 資本的支出工事は、建物全体で考えなければいけない
留意すべき事その2は、例え1つの建物設備機能のリニューアル工事でも、建物全体で考えなければいけない事だ。

なにしろ「建物としての使用利益」は、例えば建物の建物設備機能の1つのリニューアルであっても、1軒1棟の建物としては、数字の「建物資産」(図の①)を増加でしかなく、その効果も、「建物としての使用利益」(図の②)で評価される。いくら減価償却が出来ると言っても、数が増えれば累積される。だから建物資産として利益水準、費用水準が適正であるためには、1つの資本的支出工事でも、建物全体で考えなければいけない。
6.7 予算の上限を意識しなければいけない
更に留意すべき事その3は、資本的支出工事の予算には上限がある事だ。
そしてその使用利益は、立地や建物条件で決まる上限がある。当然に厳しい地域が大半である。建物の使用利益を守るためには、立地や建物条件で決まる上限に対して、工事総額が大きくなりすぎないように、抑えなければいけない。「建物の将来のため」とさえ言えば、何でも工事が出来る訳ではない。具体的には、建物全体で、資本的支出工事の優先順位付けが必用となる。
6.8 リスクを意識しなければいけない
リスクの考え方については、次でより詳しく説明するが、リスクを考える事は、これからの美味しいプランを考える事と同じくらいに重要だ。
想像通りに上手くいったプランを考える事は、楽しい。けれども問題は、プランがある事ではなく、どのくらい実現性があるか、逆に言えばどのような実現できないリスクがあるか、なのだ。それを考えられなければ、あなたは「かも」と言われて仕方がない。
6.9 建物アセットマネジメントとしての資本的支出工事の取り組みに必要なこと
これらを総括すると、建物を資産として延命続けるための資本的支出工事を考えるためには、建物所有者は、
ここで、アセットマネジメントで利益機会とペアで重要な「リスク」検討を考える。ここでは売買や建替え等リスクは考えず、築古の住宅、マンション、中小ビル等建物資産維持のリスクのみを考える。建物資産維持のリスクには、物と数字のリスク及び現在と将来のリスクの2つのリスクペアがある。
リスクの過不足ない評価が出来る事は、所有者の責任だ。リスクを高めない事が、建物資産所有者の自己責任と言える。ちなみにここで考えるのは、工事の失敗といった個別リスクではなく、より固有のリスクである。
6.1 建物延命の2つのリスクペア
建物資産には、2つのリスクペアがある。だから建物の将来を考える差には、この2つのリスクペアを両方考えなければいけない。

6.2 物のリスクと数字のリスク
まず建物資産の物の面と数字の面に対応する、物のリスクと数字のリスクだ。
物のリスクとは、物の建物が経年劣化で事故を起こしたり機能しなくなる事を指し、
数字のリスクとは、使用収益が減少したり、工事が高額で、建物が負債化する事である。
この物のリスクと建物のリスクはペアで、片方に対応すると、反対側が高まる性質がある。例えば、経年劣化した建物設備機能に対して、物のリスクを考えて高額工事をすると、数字リスクが高まる。数字リスクを考えて工事をしなければ、物の事故リスクが高まる。といった具合だ。
6.3 現在のリスクと将来のリスク
次に、物のリスクと数字のリスクのペアは、すぐには反対側のリスクの結果が出ない。。必ず時間差があり、数年後の場合もあれば十数年後のバイもある。つまり、現在リスクと将来リスクのリスクペアもある。怖いのがこの将来リスクだ。
6.4 最悪は、負のサイクルに陥る事
将来リスクが怖い理由は、これが高まると負のサイクルに陥り、建物負債化に一直線だからだ。
建物は多少問題が増え「物」リスクが高まったところで、すぐに使用できなくなるほど「やわ」ではない、けれども10年20年と問題が積み重なると、より解消に費用がかかるようになり、数字リスクが高まる。すると余計に「物」リスク解消に費用がかかり、対応できず、「物」リスクが高まるか、「数字」リスクを高めて対応するか、いずれにしろ、この悪化が繰り返される負のサイクルに陥り、やがて建物は寿命となる。

6.5 工事失敗、震災災害等リスクも、全て物と数字のリスクで考えられる
より一般にリスクとして考えれる工事失敗や震災災害等のリスクも、全て物と数字のリスクに行きつく。
例えば工事失敗は、物の問題が解決しない事で物リスクを高め、費用が無駄になる事で数字リスクも高める。原因としては、工事業者とのコミュニケーション不足やそもそも適切な実力ある工事業者を選ばなかった事にある。
また震災災害等も、やはり物と数字のリスクに行きつく。そして問題は、適切な震災災害対策を行っていなかった事で、物のリスクの高まりを放置した事である。
6.7 古い建物維持リスクの考え方
つまるところ建物に完全なリスクフリーは存在しない。古い建物ではなおさらだ。極端なリスク怖がらせ、もしくはリスク無しを言うのは、投資詐欺の営業文句だけだ。現実では、リスクを無くす事はできないが、高めない事はできる。そして特定リスクを高めない最も合理的な方法は、リスクペアのバランスを取る事である。その手法を、次にご紹介するが、その前にもう一つだけリスクの大原則がある。
6.8 安定維持こそが低リスク
建物アセットマネジメントの長期視野で考えた場合、リスクの大きな変動はそれ自体がリスクとなる。リスク対応は、それ自体が常に成功しないリスクがあるからだ。つまりリスク対応の方針では、、リスク変動が少ない状態、安定の維持を目指す事が、最も将来が低リスクとなる。このリスク対応の大原則は、重要だ。
6.9 つまり現在の日本で、建物延命が難しく感じられた理由
先に進む前に一旦立ち止まると、ここまでで現在日本で、建物延命が難しく考えられてしまった理由が見えてくる。
従来日本人は、建物資産観が希薄で、建物について管理(プロパティマネジメント)の考え方しかなく、工事費用は修繕工事費用の考え方しかなかった。管理(プロパティマネジメント)はPL及びBSのPLしか見ない。だから賃料収入(自用/自宅の場合は、賃貸した時の賃料を払わずに済んでいる事が収入と考える。)が、建物が古くなり減少すると価値が無いと考えた。工事取り組みは、建設業者に依存的で、言われるままに高額リフォーム、リノベーション、大規模改修工事、再生工事等の高額ソリューションを提案をそのまま受け取る。そうした建物延命にかかる工事を、修繕工事と同じに考えるから、高額で利益がないと考えた。
自分で「建物延命で得られると期待できる利益>延命工事の費用」を考える方法を持たないから、結局、高額リフォーム・リノベーション、大規模改修工事、再生工事といった、高額ソリューションでなければ、DIYのセルフリノベといった両極端に走り、自分で「建物延命で得られると期待できる利益>延命工事の費用」を考えるという発想すら育たなかった。
しかしそれも今現在までだ。時代が需要増大の投資適格時代から需要激減に変わった現在、難しい時代でも英欧米をはじめ世界中の個人が住宅、マンション、中小ビル資産を永久資産にしている分散修繕を、これから学ぶ。
さて、ようやく、一番最初の命題である、英欧米や世界の他国の建物所有者が、どのような利益感で、住宅・マンション・中小ビルを延命しているのか、具体的にどう建物の延命をしているのか、の答えである「分散修繕」を考えるために必要な基礎が身に付いた。尚、分散修繕の名称は、彼らが実践している方法を、日本で名付けたものである。
8.1 分散修繕とは
分散集残は、英欧米や世界の他国の(大資本や不動産業者ではない)個人の建物所有者が実践している、住宅、マンション、中小ビルの使用利益を長く延命して、「新築/取得した資産(アセット)から得られる利益総額を増やし続ける」建物アセットマネジメントの方法だ。

を継続させるために分散修繕は、建物の使用を続けながら、建物の延命・長寿化の条件である

建物設備機能のトラブルが増えてリニューアル工事等を考えるようになった際に、分散修繕として永久資産になるように工事をどうするか決められるようになるためには、建物資産所有者は、所有する建物を分散修繕で永久資産にするために4つの水準を、準備として、自分で考えておかなければいけない。この役割は、管理者や不動産屋や建設業者や工事業者や税理士、金融機関等に任せる事はできない。ただ昔は、こうした事を考える力を身に着けるためには勘と経験が必用と言われたが、現在であれば、机上の計画作成を通して、自分で考えて自分で見つける事ができる。
9.1 分散修繕の対象建物
分散修繕の対象は、全ての建物・建造物だ。
で考える。
面倒に思われるかもしれないが、こうした計画作成に必要なのは、最初だけである。一度方針が見つければ、通常の住宅、マンション、中小ビルでは、後はさほど苦労しない。
9.6 在建物永続資産の利益
適切に分散修繕を続ける限り、住宅、マンション、中小ビル等建物は、使用の利益を産み続ける。築古としての年間の建物使用利益は、確かに新築よりかなり見劣りがする。しかし既に初期投資を回収した後は、継続すればするだけ、建物アセットマネジメントとしての新築/取得時からの利益は、積み上がり続ける。

なにしろ例えば建築時/取得時に、利回りが10%だっとすれば、単純計算で、10年で初期投資をペイできる。その後も安定したインカムゲインが続けば、純粋に利益が続く。経年と共に賃料収入は減少するが長期ではインフレもある。例えその後が新築時賃料収入の半分(計算しやすいように)になったとしても、その後20年で、初期投資の倍、築50年で初期投資の3倍、築100年で初期投資の4.5倍、築200年で9.5倍の利益が、低リスクで積み重ね、新しい利益機会を子孫に承継する事ができる。こんなに美味しい話が他にあるだろうか?
ところで、人口激減時代に古い建物を維持して、需要はあるのか?と思われるかもしれない。確かに人口が減少する事で、需要「数」は減少するだろう、単身者世帯の増加や、外国人の増加では、とても全てをカバーでない。しかし私達日本人は、まだ「使用面積の増加」という空間のゆとりを増やす余地がある。の先にある、個人と街と自然環境及び社会のサステナビリティを、私達日本人はまだ知らないだけだ。
10.1 英欧米中流階級のゆとりある生活
イギリスの長細い庭付きテラス・ハウス、欧米の広い庭付きの大きな戸建て一軒家、年1~2回は長期休暇を取り、家族で海外旅行。英欧米中流階級のライフスタイルだ。もちろん中流の幅は広く一概には言えないが、大卒共働き夫婦であれば、当然に目指し実現できるライフスタイルだ。
背景にはワークライフバランスの考え方、労働効率の良さもあるが、もう一つ英欧米中流階級のゆとりある生活を実現を可能にしているのが、住宅、マンション、中小ビル、社会的インフラストラクチャーが永続資産にしている事だ。
特に個人に関して言えば、新築はともかくとして、永続資産の古い住宅、マンション、中小ビルを安く購入して、自分で手を入れて建物価値を上げる事は一般的だ。居住用であれば、高値で売却して、より良い住宅、マンションに買い替えたり、又は賃貸として、より高い賃料を得る。そうした得た資産のストックにより、子供や孫世代は、使用利益価値ある建物資産を受け継ぎ、住宅ローンの縛りから解放され、金銭面のゆとりと同時に、広い面積をゆったりと使用出来るゆとりを堪能する事ができるようになる。つまり世代を重ねる程豊かになれる道がある。
10.2 住宅ローンに縛られ貧しくなる日本人と違い、住宅ローンの縛りから解放され豊になる英欧米人
現在の日本の住宅、マンション、中小ビル等が築40年築50年で寿命という考え方は、つまり個人は、人生の重要な時期に住宅ローンを支払い続け、ローンに縛られた人生を送る事を意味する。しかもそうしてローンを払い続けた建物は、自分の代で価値がなくなる。従って子供の代はまた0から、住宅ローンを払い続け・・・・を繰り返す。持ち家を得られなければ、一生家賃を支払い続ける。いずれにしろ代々住宅ローンの奴隷もしくは家賃の奴隷の生涯だ。
一方で、住宅、マンション、中小ビル等を、個人が自分で永続資産する英欧米では、親が住宅ローンを払った、住宅、マンション、中小ビル等を、子供は使用利益を産む資産として、相続できる。子供は、相続した親の家に引っ越して暮らす、既に自分の家があれば、別宅別荘として使う、手入れして賃貸に出す、売却するといった自由な選択ができる。
例えば子供が自分で自分の家のローンを支払っていても、親から相続した家を賃貸し、その賃料収入を得ていれば、生活にゆとりが出て、家族で海外旅行にも行けようというものだ。階級社会が色濃く残る英欧米では、大卒が10%弱であり、いわゆる中流階級は社会の大多数を占めてはいない。それでも中流階級に足をかけて住宅、マンション、中小ビル等資産を一度手に入れれば、極力その資産をベストに生かすアセットマネジメントを真剣に考える。
10.3 日本も建物の永久資産化が実現する、 広い空間を使用できるゆとり
私達日本人も、住宅、マンション、中小ビル、社会的インフラストラクチャーを分散修繕で永続資産にすれば、新築投資費用回収が終われば、後は分散修繕用の少ない予算留保で延命を続けられる。費用が安いから広い面積をゆったりと使用出来るようになる。つまり、「ウサギ小屋」生活から卒業ができる。富裕層ではない中流階級でも、英欧米のように広い空間でゆとりある生活を手に入れる事ができる。
私達日本人が、英欧米の中流階級のようなゆとりを得る鍵が、住宅、マンション、中小ビルが永続資産となる事だったのだ。ローン返済がとっくに終わった築古の住宅、マンション、中小ビル等は、分散修繕用の少ない予算留保で延命できるから、例え築古として賃料が下がっても、実は使用利益は十分にのこる。だから使用者は、広い面積を使用する事ができる。割安の古い物件は、賃貸でも人気であり、適切に手入れされている古い建物は、もちろん売買でも値が付く。
10.4 複数住宅を持つゆとり
既に日本でも二拠点生活、三拠点生活という言葉があるように、英欧米や世界の他国では、複数住宅を持つ人が少なくない。例え都市部の自宅は狭くとも、地方都市や郊外にセカンドハウスがある、趣味の別宅がある。そうした文化が、空いている時期に、レンタルホリデーハウス・ホリデーアパートメントとして貸し出すマーケットとなり、AirBnBへと発展している。生真面目に毎週末訪れるのではなく、数日から1週間から数週間単位の休暇を取って、ゆったりと訪れ滞在する。
10.5 単身者でも、大きな家で生活するゆとり
まただから英欧米や世界の他国では、単身者でも、大きな家や広いマンションの部屋で、ゆとりある生活をしている人も多い。収入が高い人は新築高級マンションの広い部屋に住むとして、普通の中流階級でも、永久資産化して賃料が安い古い住宅、古いマンションで、広くゆとりある空間を、自分の趣味に仕立て上げて自分の世界観で暮らす。自分の趣味や好みの空間に仕立て上げられる事が、まさに古い建物の良さなのだ。ニューヨークを見てみよ。ニューヨーカーたちは、古い建物の広い部屋を自分好みの空間にして暮らしている。
10.6 建物永久資産化が実現するステップアップライフのゆとり
住宅、マンション、中小ビルが永久資産となっている英欧米や世界の他国では、大卒の若い人は、仕事が決まるとまず住宅ローンで、手入れが悪いフラット/家を安く買う。そうした手入れが悪いフラット/家とは、たいていが高齢者が暮らしていた部屋や家だ。前所有者は、古い内装と設備だが、自分の空間として人生を全うする。そしてお金がない若い世代は、資産を安く手に入れる事ができる。そしてリフォーム業者やリノベーション業者には頼らず、自分で住みながら修繕し内装に手を入れ綺麗にして価値をあげる。そうして5年10年たちお給料も上がると、価値が上がった最初のフラット/家は、貸すか売るかして、次のより良いフラット/家を購入する。これを2-3回繰り返し、やがて結婚し、納得できるフラット/家を手に入れ子供を育てる。このライフプランの利点は、例え人生が理想通りに進まずとも、とにかく資産を手に入れている事だ。
10.7 建物の永久資産化こそが街の存続
そして街は、建物の集合体だ。だから建物の永久資産化は、街の存続でもある。人口減少で、建物が維持できなくなれば街は廃れるが、建物が維持できれば街も存続できる。街を構成する住宅、マンション、中小ビル、社会的インフラストラクチャーが永続資産になる事は、街の存続そのものだ。だから英欧米では、古い建物が建ち並ぶ趣きある街が存続している。そして古い建物が建ち並ぶ趣が、街の魅力として人を惹きつけ、街の価値になっている事を知っているから、1軒1棟がその趣を壊さないよう建物の外観を維持する。地方部では、建物数軒数十件の集落も珍しくない。現在の技術では、社会的インフラストラクチャーも低予算で維持ができる。日本も、建物の永久資産化が実現し、最新技術を取り入れれば、地方都市問題の多くが解決できる。
10.8 建物の永久資産化こそが環境サステナビリティ
また建物を安易に建替えない事は、安易に大量の産業廃棄物を排出しない事を意味する。建物の永久資産化こそが、本物の自然環境サステナビリティなのだ。日本も過去の貧しい時代の木造安普請の小屋や長屋暮らしであれば、最後は自然に戻った。しかし現在の新素材住宅、鉄筋コンクリート造等のマンションや中小ビル等は違う。建物を寿命にする事は、自然に還らない産業廃棄物を排出し、どこかの自然環境を汚す行為だ。現在のSDGs時代に、家や建物を安易に産業廃棄物にする日本人には、SDGsを言う資格がない。
10.9 土地と建物の永久資産化で日本もゆとりと持続可能性を高める
日本人も、従来土地こそ資産、土地を多く保有している地主が豊かさの象徴だったが、その本質は未だ変わらない。ただ現在の宅地では、土地の価値も土地の上の建物の使用利益で決まり、土地の上の建物が維持できなくなれば、土地も失う。だから、土地の上の住宅を永久資産化は、土地資産を守る方法なのだ。土地の上の建物永久資産化は、人口激減の難しい時代に使用利益を産む資産を低リスクで手に入れられる子供も孫も喜ぶ、街も存続できる、社会も存続できる、自然環境のサステナビリティも向上する。私達日本社会は、従来になかったゆとりを手に入れ、昭和の考え方では実現できなかった持続可能な社会を手に入れる事ができる。
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