築30年以上中小ビル賃貸経営者/後継者向け
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収益ビルは、分散修繕計画があっても、賃貸が継続しなければ終わりです。収益ビルでは、建物の寿命の延ばす工事に加えて、賃貸効果目的工事も必要です。そのいずれにも「低予算」「低リスク」に加えて「高(賃料収入)効果」が必須です。これがなければ経営が破綻します。ここで鍵となるのが、地域賃貸マーケティングです。地域賃貸マーケティングをベースに賃貸経営と分散修繕が合致する事で、収益ビルは、築年を重ねても永続的にでも安定利益を産み続けます。これからの時代の日本の築古ビル資産経営者は、この安定ビル資産経営を学ばなければいけません。
今まで日本では、どうして築古ビル経営が難しいと考えられてきたか。それはPL(損益計算書)の収益最大化の考え方しかないからです。
今まで日本では、どうして築古ビル経営が難しいと考えられているのか。それはPL(損益計算書)で収益最大化の考え方しかないからです。
築古ビルは経営が難しいと言われます。実際にPLの賃料収入は新築時より遥かに少なくなります。理由は、次の3つの複合です。
築40年前後で適切に資本的支出工事ができていない建物は、建物の古臭さ、清潔感の欠落、経年劣化をした建物設備機能のトラブル等、建物が快適安全とは言えない環境になります。だから賃貸で選ばれにくくなります。
30年40年経過すれば、地域の様子も変わります。地域の賃貸事情も変わります。地域で物件を探している人が変わる事で、選ばれやすい物件のタイプも変わるのです。
また30年40年経過すれば、賃貸物件に要求される条件のトレンドも変わります。セキュリティーであったり、空調であったり、トイレも現在ではウォッシュレット付きが当たり前といった具合です。
こうした問題で築古収益ビルの賃貸が難しくなり、賃料収入が下がるとお金がないから余計に建物工事が難しくなります。そうしてやはり10年20年時間をかけて、築古ビル経営の負のサイクルに陥ります。
どうしてこうなるのかといえば、今まで日本のビル経営は建物が新しい事が普通だったので、建物(アセット)の心配の必要がなく、賃貸経営・修繕工事・プロパティマネジメントの考え方しかなかった事です。つまりすべてPLだけの考えしかありません。更にいえば、時間の経過による変化に対応をする考え方もありません。すると建物が古くなって、「賃料収入」が減った「修繕費」が増えた、こりゃダメだと考えた訳です。
一方で古くてもテナントに選ばれ続け、経営が継続するビルがあります。つまり単純に一律に建物が古いと賃貸経営ができない。ではないのです。では建物が古くなっても賃貸経営を継続出来ているビル経営は、何が違うのか?それがビル資産経営です。
築古ビルには、建物の使用を継続し、また賃貸で選ばれるための資本的支出工事が必要です。つまり、分散修繕が経営に含まれます。つまりビル経営ではなく、ビル資産経営が必要になるのです。
築古ビルは、建物の使用継続に欠かせない建物設備機能のリニューアルや新規設置等工事に加えて、賃貸経営継続に欠かせない賃貸効果目的工事も資本的支出工事に該当します。
つまりPLの収益を考えるビル経営ではなく、PLの収益と共にBSの資本的支出工事による資産維持も考える、ビル資産経営が必要になるのです。
経営とは利益の継続です。
ビル資産経営とは、建物の経年と共に減少する利益に対して、資本的支出工事を効果的に行い、テナントに選ばれるビルであり続ける事で、ビル経営利益を継続する事です。
PLの収益だけを考えるビル経営は、実際にはPM(プロパティマネジメント)です。プロパティマネジメントの目的は、収益の最大化です。
けれどもビルが古くなると、BMの資産を資本的支出工事により「賃貸で選ばれて賃料収入を産む収益資産」として維持する事も含まれます。これは建物AM(建物アセットマネジメント)です。築古ビル資産経営では、両方が必要です。そしてPM(プロパティマネジメント)は、管理会社に任せる事もできますが、AM(アセットマネジメント)は他人に任せる事はできません。ビル資産経営者の判断です。
ビル資産経営でも、資本的支出工事は分散修繕で取り組みます。ただいずれの工事も、「低予算」「低リスク」だけでは足りません。結果テナントに選ばれて相応賃料を支払ってもらえる「高(賃料)効果」も必須です。
リフォーム業者に進められて高額リフォーム工事を行ったところで、テナントに選ばれなかったり、賃料効果がなければ、それは負債にしかなりません。負のサイクル一直線です。
古くても、適切に維持管理されて賃料が手ごろなビルは、テナントに好んで選ばれます。これをどのように実現するかが、ビル資産経営の問題なのです。
古い建物にお金をかけずボロビル化するとテナントに選ばれなくなりますが、お金をかけたからといったテナントに選ばれる訳ではありません。テナントが選びたいビルであり続ける事で、テナントに選ばれるのです。
テナントは、地域の地域賃貸マーケットの中でいくつもの物件を比較検討して、入居物件を選びます。1 で確かめた通り、地域の様子や地域で物件を探すテナントタイプ、求められる要件や賃料水準は、常に変化しています。だから築古ビル資産経営では、資本的支出工事に際して、地域賃貸マーケティングが必須です。これは後程具体的に見ていきます。
つまり、ビル資産経営には、ビル資産の3面性に、営業面が加わり、4面性があるのです。
ここでの営業とは、自分で賃貸リーシングを行う事ではなく、賃貸営業を成功させるために欠かせない、地域賃貸マーケティング、賃貸方針、賃貸効果目的工事から賃貸リーシング戦略に至るすべてを指します。そして築古収益ビルでは、(権利に問題がある場合は権利も含まれますが、通常は問題ないとして)
物 (建物がテナントに目標賃料で選ばれる状態か)
数字(賃料収入の一部を分散修繕工事に回して、十分な利益を得続けられるか)
営業(地域賃貸マーケティング)
の3面を必ず考えます。
経営の目的が利益の維持である通り、ビル資産経営では数字面のコントロールが命です。
いかに少ない予算で効果的に資本的支出工事を行って、ベストな賃料で賃貸を成功させ、ベストな利益するか?
最終的にはこれが、ビル資産経営の主命題になります。
ビル資産経営の手法はいろいろありますが、大資本やプロフェッショナルではない、一般の中小ビルは、安定ビル資産経営を目指します。
安定ビル資産経営は、安定した利益の継続を目指す経営です。もちろん年によって増減や、長期的な低下もしくは上昇といった傾向はあります。
ただ、今年は空で管理費と諸税分がマイナス、来年はリノベーション投資をして大支出、再来年以降は高賃料収入で早期に回収をする・・シナリオは、何か計算が狂うと負債化します。こうした高投資高リスク高リターンは、リスクを取れる大資本やプロフェッショナルが行う手法です。
安定とは、低リスクです。投資では、変動はボラティリティと言われて警戒されます。ビル資産経営のリスクとは、最終的に資産を失う事です。これは避けなければいけません。
ゼロから資産を作るには、こうした高投資高リスク高リターン投資も必要ですが、既にビル資産を所有しているビル資産経営は、資産を失うリスクがある投資に賭けずとも、安定ビル資産経営で資産を守り利益を積み上げる事ができます。だから今ある資産は、守る事が利口なのです。資産を増やしたければ、得られる利益から、別の投資をすればよいのです。
築古ビル資産の安定経営は、賃貸経営と分散修繕がかみ合う事で、実現できます。利益は一体で作られるからです。これは、自立したビル資産経営サイクルを回す事で実現します。
自立とは、外部からの追加投資なしに、賃料収入の一部を資本的支出投資に回し、高効果な分散修繕を行う事で、テナントに選ばれ、賃料収入を作り、またその賃料収入の一部を資本的支出工事に回す・・サイクルが続く状態です。このサイクルが続く限り、建物資産は、永久にでも、利益を産み続ける金の小槌となります。
分散修繕同様に、安定ビル資産経営を実現するには、最初に30年安定ビル資産経営計画の作成が必須です。
最初に自ビルのビル資産経営サイクルを見つけて、感覚的につかむには、やはり30年安定ビル資産経営計画が必要です。これは30年分散修繕計画を含んでいますが、30年分散修繕計画だけでは、賃貸方針を合致させられないのです。 30年安定ビル資産経営計画の作成は、単に将来のベストな賃料収入を考えるのではなく、資本的支出工事を効果的に行い、テナントに選ばれるビルであり続けるために、どう工事をすればよいか、を深く考え、検討する事に、その意義があります。こうした試行錯誤が、のちに実際の賃貸や工事の判断場面で検討として生きてくるのです。
マイクロソフトエクセル等シートで
賃貸経営計画
(管理計画)
(資金計画)
分散修繕計画
が縦に並びます。30年分散修繕計画同様、分析用の計算式が埋め込まれている事が重要です。ビルオでご相談を頂きましたら、30年分散修繕計画のひな型をご提供します
実際の作成の流れは次の通りです。
自分の予算かつ低予算低リスクの分散修繕で、現在の建物はまだ100年超長寿化できます。建替えや高額リノベーションは不要です。築30年以上中小ビル資産・一棟所有中小マンション資産のご相談はまずビルオへ。長寿化プラン、安定ビル資産経営、その他問題解決の助言・指導・支援。また古い建物が持続できる街作りに対する助言も行っています。
地域賃貸マーケティングは、地域の賃貸マーケット状況を把握して、賃貸経営計画や分散修繕計画を考える際に必要な情報を入手するために行います。無意識で出来ている人も多いと思いますが、何の情報に着目すべきか、あらためて確認しましょう。
まずエクセル表に向かう前に地域賃貸マーケティングを行います。地域賃貸マーケットは、いわゆる取引所がありませんから、自ビルの地域賃貸マーケットは、自分で見つけるしかないのです。地域賃貸マーケットの全体像は次の通りです。
自ビルにとっての地域賃貸マーケットは、ライバル物件が存在する範囲です。これは切り取り方で変わります。
一般的に不動産屋が名づける切り口には、例えば、渋谷、新宿、池袋といった単位の場合もあれば、東京六区(千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区、文京区)と、城南 城北 城東 城西といった区分もあります。
中小ビルの場合、もっとローカルに考えます。例えば渋谷という一つの地域を取っても、恵比寿原宿を含む渋谷地域の場合もあれば、渋谷駅に限定の場合、更に道玄坂付近/宮益坂付近、駅前繁華街や少し駅から離れたブランド地域等それぞれ違います。
自物件の特徴とは、賃貸マーケットでの自物件の情報です。良し悪しはありません。全て自ビルの個性です。
この自物件の特徴には、固有の特徴(変えられない特徴)と変えられる特徴があります。
経年によってテナントが物件に求める条件は変わってきますが、変えられない特徴は生かすしかありません。変えられる特養を選ばれる状態に保ちます。
「自物件(の特徴)を選ぶターゲットテナント」を見つけて、理解します。
理由は、物件を選ぶのは、テナントだからです。テナントは、事業規模や事業タイプに適した「条件」をつけて物件を探します。例えば
自物件のライバル物件とは、自物件を選ぶ可能性が高いターゲットテナントが、物件探しの時に他に比較検討をするビルです。同じ地域賃貸マーケット内にある、貸床面積や立地条件をはじめ物件特徴が似通っているビルです。
自ビル物件の募集賃料は、ライバル物件との比較で決まります。賃貸効果目的工事も、ライバル物件を知ると、より無駄なく低予算で高効果な戦略を立てられるようになります。
自物件のポジショニングとは、地域賃貸マーケット内の自物件の賃料ポジションです。通常は他ライバル物件との比較できまります。
この自物件のポジショニングは、ビル資産経営次第で上下します。
ベースとなる地域賃貸マーケットの相場は、社会経済の動向や、地域の興隆衰退で常に上下しています。ただリーマンショック後の低迷期を思い出せばわかりますが、個人では買えられません。それに対して自物件のポジショニングは、経年と共に下がりますが、賃貸効果目的工事投資等でアップする事ができます。
ただし留意すべきは、他のライバル物件の賃料が必ずしも合理的に決まっていない事です。
賃貸マーケットはいわゆる「レモンマーケット」です。客観的な相場がないので、極端に高い賃料で選ばれる物件や、極端に安い賃料で選ばれる物件が、混在しています。だから賃料に疑問がある事例は除外もしくは修正をします。
現在の地域賃貸マーケットが見えてきたら、将来の動向を読む訓練も日ごろから行っておきましょう。 賃貸マーケットは、様々な社会経済事情の影響を強く受けます。
30年賃貸経営計画は、数字では30年の賃料収入見込み計画です。問題がなければ、現状継続です。賃貸は出た時勝負だから、あまり先を考えても仕方がないという考えもありますが、営業面では、地域賃貸マーケティングで将来の賃貸環境を考え、また物面では、必要があれば、賃貸目的工事効果をどう行えば、高い賃貸効果が得られるのかを、考えておかなければ分散修繕が計画できません。この見込みが甘いと、30年の賃料収入見込み計画は絵に描いた餅となり、分散修繕も上手くいかず、経営破綻のリスクが高まります。
最初に賃貸経営の全体像は、次の通りです。
賃貸方針 (賃料収入を計画して物件を準備する)
賃貸リーシング (賃料収入を実現する)
賃貸管理 (賃料収入を守る)
築浅の時は、賃貸方針は問題になりませんでしたが、築古ビルでは、これが賃料収入を作ります。だから30年安定ビル資産経営で賃貸方針をしっかり確かめる必要があるのです。
賃貸方針は、次のように決まります。
といっても多くの場合は、「現状通り」です。ただ賃貸効果目的を「低予算低リスク高効果」で行う観点から、微妙に見直しが必要になる事があります。
また地域賃貸マーケットの事情が大きく変わる場合の対応は、後ほど「3.5 地域の将来見込みが厳しい場合」でみてみます。
賃貸経営は、地域賃貸マーケットの変化の影響を受けますが、入居者の賃料収入は地域賃貸マーケットの影響を受けない特質があります。賃料は、普通の賃貸借契約で固定です。テナント入居期間中は、地域賃貸マーケットの水準がどうであれ、賃料は変わりません。(賃料減額要請を受けた場合や、マーケット変動型は別ですが)この安定賃料収入が賃貸経営の魅力です。ところがテナントが退去をすると、突然築古ビルとしての時価で評価されます。
特に長期入居テナントが退去した場合、その後大きく賃料収入が減る場合があります。賃貸経営では、そうしたテナントは、予期しておかなければいけません。ここで予期をしておかないと、慌てて高額リフォーム投資に飛びついたり、悲観的になって極端な判断をしてしまうのです。
つまり賃貸経営は、テナントが入居して満室の間は何も問題はないのですが、いざテナントが退去すると、特に築古ビルでは多くの事を決めなければいけません。
30年賃貸経営計画は、各貸部屋の賃料表(レントロール)の30年延長です。一応、1棟まとめて総額から空室率分賃料を差し引く簡易方法もあります。
問題はテナントの退去をいつ見込むかですが、テナントの入居期間は、賃貸サイクルを決めます。 だいたい自ビルの傾向で、一度入居したテナントが、退去しない/10年くらいで退去する/5年くらいで入れ替わる・・・等があるものです。それを推察します。オフィス、部屋の広さ、店舗等で異なる場合もあります。
同時に、今後30年の自ビルの賃料水準の変化を想定します。インフレはありますが、よほど好立地ではない限り、「保守的」に、右肩下がりを想定します。どの程度下がるか(下がらないか)は、地域の賃貸マーケット事情と、自ビルの状態で決まります。具体的な賃料査定の考え方は、「3.3 賃料はどう決まるのか」で見てみます。
賃貸経営計画では、各部屋の賃貸サイクル終了時点で、原則、3.22で想定した賃料水準に変わります。(もし数年の空室長期化が想定される場合に、数年ゼロ期間を設けます。)そこで賃貸効果目的工事を想定するかどうか、が問題なります。
賃貸経営だけを考えれば、毎回賃貸効果目的工事を行って、ベストな賃料を目指せばよい、と考えたくなりますが、安定ビル資産経営としては、分散修繕としての予算の制約があります。だから、30年の中で、どのタイミングで、賃貸効果目的工事を行う事が効果的か、考える事になります。賃貸効果目的工事の考え方については、「3.4 賃貸効果目的工事の考え方」で改めて触れます。
そもそも賃料がどう決まるのか?貸しビルの賃料は、次の2つの要素で決まります。
地域賃貸マーケットの相場は、その時々の社会経済状況、地域状況、インフレ等の影響を受けて、上下しています。ちなみに現在の相場は、相場サイクルの中では高めです。この動きは、地域の中でプライムとなるビルの募集賃料推移を不動産屋に教えてもらえば、わかります。今後日本は、インフレと人口減少による需要減少の下方圧力が拮抗し、地域格差が広がる事が想定されます。
地域賃貸マーケットの賃料水準には大きな幅があります。(Aクラス、Bクラス、Cクラス・・・で水準が違います。)この地域賃貸マーケット内で、自ビル賃料は、ライバル物件との競争で、決まります。 地域賃貸マーケットの中でのライバル物件とは、自ビルを選ぶ可能性があるテナントが他に比較検討をするビルですが、地域賃貸マーケット内で、築年数や広さ・物件グレード等の似通ったライバル物件は、限られているものです。だからライバル物件を見つける事で、その比較検討で自ビルの賃料水準を見つける事ができます。
先の地域賃貸マーケット相場がどう変動するか、予測はできませんが、通常は保守的に(インフレを想定しても)右肩下がりに下がると考えておきます。(これは将来になるほど不確定要素が高くなるためでもあります。)
一方で、 地域賃貸マーケット内でのライバル物件との競争力は、何もしなけれ経年とともに低下します。つまり賃料ポジションも下がります。
そこでどこかで、賃貸効果目的工事を加えてアップサイドを取る事を考えます。賃貸効果目的工事でどの程度アップサイドが可能かも、地域賃貸マーケット内のライバル物件との比較検討で、想定ができます。
30年安定ビル資産経営計画作成の実務上では、毎年考えるのは大変なので、(またどうせ想定だから)5年10年単位で考えておけば、十分です。
賃貸効果目的工事は、具体的に何が効果があるかは、その時々のトレンドもありますから、その時々で考えます。ただ計画で予算を確保するにも、分散修繕を考えるにも、ある程度どこをどのような感じで改善するといったイメージが必要です。
賃貸効果目的工事は、
「数字」予算と費用対効果
「物」現在の物件の強みに何をするか?
「営業」テナントに選ばれる効果はあるか?
の3点セットで検討をします。
賃貸効果目的工事は、例えば次のような対象があります。
貸室やフロアで必要な工事は、数に注意します。
何が、賃貸効果目的工事として効果があるかは、自ビルを選ぶ可能性が高いターゲットテナントが決めます。
低予算でかつ高効果を求めるならば、ターゲットテナントが現在評価している自ビルの特徴を最大に生かした上で、少し残念だった点を改善する事です。逆に言えば、下手にお金をかけて自ビルの特徴を潰してしまっては、元も子もありません。
ターゲットテナントの選好性は、ターゲットテナントの価値観を反映します。中小ビルの場合、しばしば数百万円の豪華内装より、色や仕上り、些細な工夫やセンスといった、投下費用とは関係ない細部で評価される事が少なくありません。「神は細部に宿る」という通りです。古臭くても、逆に自由な雰囲気が評価される事もあります。
これをターゲットテナントに聞ければよいのですが、例えばどこを改善すればよいと思いますか?と聞けば、予算を気にせず色々言ってきます。改善案をどう思うかと聞けば、お世辞でいいねというでしょう。(たいていはどうでもいいという意味です。)本音を聞くには、ある程度関係づくりも必要です。現在入居テナントが、一番自ビルの良い点と問題点をわかっている事は確かです。またライバル物件の研究も、多くのアイデアのヒントになります。
計画段階ではある程度目途だけつけて、その後本番に向けて理解を深めていきましょう。
賃貸効果目的工事の中身は時間をかけて考えるとして、工事予算の上限は、30年安定ビル資産経営計画で決めておかなければいけません。過剰投資リスクが高いだけに、「予算上限」意識は非常に重要です。賃貸効果目的工事の予算上限は次の3つの数字の上限を検証して、うち一番低い数字を賃貸効果目的工事予算の上限とします。
①アップサイド賃料の上限
賃貸効果目的工事で工事をしなかった場合と比べてアップできる賃料は、地域賃貸マーケットの中で上限があります。築古中小ビルがどんなに頑張っても、新築Aクラスビルの賃料水準は無理です。上限は、地域賃貸マーケティングで調べておきます。
② 分散修繕工事の予算上限
また賃貸効果目的工事予算には、分散修繕工事予算としても、上限があります。賃料アップを見込んで、多額投資をして、見込み賃料収入を得られなかった場合、その後の他の工事予算もなくなり、負のサイクル一直線です。
分散修繕として、30年総工事予算から、建物使用に必用な必須工事予算に先に配分をした上で、賃貸効果目的工事予算配分を決めておきましょう。賃貸効果目的工事は、部屋毎に必要な工事は部屋の数、トイレ・給湯室はフロアの数、必要になる事も、留意が必要です。
③ 費用回収期間
ビル資産経営の観点からもう一つ重要なのが、費用回収期間です。
例えばテナントが10年程度で入れ替わるビルで、入替りの都度必要な工事で費用回収期間が10年を超しては、実質費用回収が出来ません。早期退去のリスクも考慮すれば、2-3年程度が理想です。ただし効果が続く場合はもちろん長く見る事もできます。
計算方法は次の通りです。
いわゆる費用対効果は、言葉は有名ですが、これは単体で使ってもあまり意味がません。どうせ将来の想定だからです。大切なのは中身です。費用対効果は、賃貸効果目的工事案の数字面での比較検討用に使います。A案、B案、C案・・・に対して、「実現性」と「費用対効果」を比較検討して、「実現性が高く」かつ「費用対効果も良い」案を選ぶのです。
■ 費用対効果の計算
費用対効果の計算は次の通りです。
ここでは、地域の地域賃貸マーケットが消滅しそう・・という場合を考えます。人口激減縮小時代には、街が衰退する・・学校や大きな会社・スーパー・工場が移転する・・将来の地域賃貸マーケット見込みが厳しい地域が大多数です。AがダメでもBが大丈夫という簡単な話はまずありませんが、他の用途等を検討する際のヒントを簡単に述べておきます。
こうした空間ビジネスを入れる事をオペレーション導入といいます。(空間を)オペレーション(する)ビジネスが成功するかどうかは、ビジネス運営者(オペレーター)の手腕で決まります。立地や物件は関係ありません。そして長く生き残るのはわずかです。 これに手を出して良いのは、自分の広告宣伝集客力と運営力の自信があるか、さもなければ能力が高いオペレーターと組む場合だけです。
オフィスがダメだから居住用に変更する。ホテルに変更する。といったソリューションもあります。用途変更は最終手段です。相応の投資を要し、しかも一方通行です。 オフィスから住居、ホテルへといった場合、マーケットが変わるだけではなく、建物にかかる建築基準法の適用も変わります。住居やホテルはオフィスとは比べ物にならない程水使用量が増え、給排水管の問題も増加するといった具合です。
検討しても、思わしい案が見つからない・・・場合が実際にはほとんどです。ではどうすれば良いのか?
安易に結論を急がない事です。
もし想定が外れないようであれば、問題は近隣地域全体でうs。地域として、地域の街おこし/街の維持を話し合いを作りましょう。資本を投下する街作りではなく、地域賃貸マーケティング手法を街全体に適用して、古い建物が生きる街の特徴を、一棟一棟ではなく街全体で作るのです。
ビルオでは、こうした築古ビルの街作りの助言も行っています。
ここから、分散修繕計画の話になります。 分散修繕計画作成のプロセスは、30年分散修繕計画の作成と同じです。だから30年分散修繕計画の作成の通りです。ここでは収益ビル特有の留意点をご説明します。 ここでは、収益ビルに絞った留意点をご説明します。
30年安定ビル資産経営計画の中での分散修繕計画作成で考えるべき事は、賃貸経営計画で考えています。
分散修繕の工事財源:将来に渡る賃料収入
将来のビル使用者:自ビルのターゲットテナント
将来の自ビルの在り方:3.32 何が(低予算で)効果があるのか?で考えた事をを含めて将来の予定賃料ポジションでターゲットテナントに選ばれる自ビル
収益ビルでは、分散修繕の対象工事には、建物設備機能等の経年劣化部分のリニューアル等工事に加えて、賃貸効果目的工事が加わります。ただ両者は綺麗に分かれる訳ではなく、1つの工事で両方の目的が共存する事が珍しくありません。ビルの使用だけを考えるなら最低限のスペックで良くても、テナントに想定賃料を支払ってもらうには、もう少し機能性能グレードが必要だったりする訳です。
優先順位は、それぞれ別々に考えます。
収益ビルの30年総工事予算は、
見込み賃料収入の5%から10%を推奨します。
そこから、検討を通して±していきます。
30年安定ビル資産経営としての30年分散修繕計画特有の留意点をいくつか述べておきます。
30年分散修繕の仕上げであるリスクの分散は、30年ビル資産経営計画作成では、安定ビル資産経営の輪で確かめます。
30年分散修繕計画作成では、最後にリスク分散を確かめました。30年安定ビル資産経営計画では、安定ビル資産経営サイクルを確かめます。安定が、低リスクです。安定が、人口激減の難しい時代でもビルの経営と資産を守ります。
安定ビル資産経営とは、「数字」「物」「賃貸」面が全て「安定」している状態です。(ちなみに安定は一定とは違います。多少変動や下落等傾向があっても、長期傾向が見えているのが、安定状態です。)
より具体的に安定ビル資産経営とは、
・事故を起こさず 「物」
・賃貸を継続 「賃貸」
・負債を作らず 「数字:BS」
・利益を維持する 「数字:PL」
4つが満たされた状態です
この安定ビル資産経営は、安定ビル資産経営のサイクルで維持できます。一度安定ビル資産経営のサイクルが出来ると、サイクルのモーメンタムで楽に安定ビル資産経営を維持できるようになります。AをしたらBの結果で・・と言えるほどビル資産経営は単純ではありませんが、大きな流れで安定ビル資産経営のサイクルが見えます。
何か問題があれば、安定ビル資産経営サイクルに戻るように、問題を対応します。
安定ビル資産経営サイクルは、安定ビル資産経営のストーリーで確かめます。次の3つのストーリーに破綻が無い事が、安定ビル資産経営サイクルの要件です。
■「数字」のストーリー
30年安定ビル資産経営計画表は、数字「利益」のストーリーです。
賃料収入のストーリーと分散修繕がつながらなければいけません。つまり賃貸経営計画のテナントサイクル時期に合わせて、賃貸効果目的工事等が入ります。
その上で分散修繕の数字のストーリー、予算が準備できてから工事、も極力守られます。
■「物」のストーリー
「物」のストーリーは建物の状態です。築古ビルとして、建物設備や内装等の経年劣化があっても、全体として見込み賃料で選ばれるビルであり続けなければいけません。悪化場所のリニューアル工事等を行い、建物全体では一定水準を保つように、必要なタイミングで必要な工事が計画されているのが、「物」のストーリーです。
■「賃貸」のストーリー
「賃貸」のストーリーは、賃貸経営のストーリーです。
地域賃貸マーケットの中で、空室が出たら時価で/賃貸効果目的工事を行い、目指す想定賃料で次テナントが入る。このストーリーが、地域賃貸マーケットの動向や他のライバル物件との比較で、競争力ある状態に「物」の物件が準備できていなければいけません。
3つのストーリーを重ねても、ストーリーがつながり、どこにも無理や破綻がない事を確かめます。
ここでたとえ直観でも一瞬でもどこか違和感を感じたら、それはどこかが破綻しています。賃貸計画及び分散修繕計画を見直します。
ビルオの30年安定ビル資産経営計画作成講座を受講されると、こうした確認をご一緒に行うので、自己流でストーリーの破綻に気が付かず、後でトラブルで苦労するるリスクを極力軽減して、ストーリーを確認する勘を体得できます。
エクセルシートをコピーして、沢山バリエーションを作成します。 30年ビル資産経営計画も、沢山のストーリーを検討する事で、より高利益で安定した安定ビル資産経営計画が見つかると同時に、それが経験値として実際の賃貸や工事判断の場面で生きます。
自分の予算かつ低予算低リスクの分散修繕で、現在の建物はまだ100年超長寿化できます。建替えや高額リノベーションは不要です。築30年以上中小ビル資産・一棟所有中小マンション資産のご相談はまずビルオへ。長寿化プラン、安定ビル資産経営、その他問題解決の助言・指導・支援。また古い建物が持続できる街作りに対する助言も行っています。
30年安定ビル資産経営計画はの実践として、賃貸リーシングの取り組み方をここでご紹介します。もちろん宅地宅建取引業者資格を取ればよいという話ではありません。
賃貸リーシングは、退去予告が出たところから始まります。普通賃貸借でもオフィス店舗は通常6ヶ月前予告です。その時点から6ヶ月間が、次のリーシングの準備期間です。
現在テナントから退去予告が出たら、まず地域賃貸マーケティングを行います。 現在の地域の賃貸状況がどうか、知り合いの不動産屋に聞いたり、またはネットでライバル物件の募集賃料を調べて、自物件の次の募集賃料を推測します。
ここで検討に上がるのが、何か工事が必要か?です。 30年安定ビル資産経営計画を参考にしますが、地域賃貸マーケット相場が良いから必要ない場合もあれば、逆に相場が悪すぎて効果がないから必要なくなる場合もあります。予定をしていなかったけれど、低予算高効果が見込めるから行う場合もあります。30年安定ビル資産経営計画で将来のビル資産経営への影響をシミュレーションをして決めます。
ここで工事を行うと決めた場合は、工事可能になったら遅滞なく工事を行い、早く次の賃貸準備ができるように、段取りよく進める必要があります。速やかに相談ができるためには、前々から業者を探して選定しておきたいものです。
ここで重ねて工事の手間を省くために、原状回復工事を費用で精算する場合もあります。こうした交渉は、通常は元受不動産屋が間に入って調整をします。
ところで、現在テナントから退去予告が出たら、現在テナントとの賃貸借契約書も読み込み、退去時条件を確認します。たいてい
次の募集賃料の設定は、「前と同じ」ではなく、地域賃貸マーケティングで決めます。次の募集賃料の設定は地域賃貸マーケティングで決まります。
ただ地域賃貸マーケットが上向きなら強気(高め)、地域賃貸マーケットが下向きなら弱気(低め)に設定する。着地賃料に対して、わずかに高めに募集賃料を設定して、賃料交渉可幅を不動産屋に伝えておくといった、プラスαテクニックもあります。ご興味があれば、ビルオに教えて欲しいとご要請下さい。
一時、建替えの時にテナント退去が面倒だから「定借」が流行りましたが、建替えを考えない安定ビル資産経営では、普通借で十分です。通常は普通借と定借では、定借の方が賃料が下がります。 流行の波がある店舗等は、定借の方がコントロールしやすいでしょう。ただ日本の定借は解約不可条項をいれず、再契約交渉も可のため、あまり定借のメリットがありません。
募集賃料の設定以外に、賃貸リーシングを有利に進めるための募集条件の戦略もあります。
募集条件戦略:敷金、礼金更新料を減らす。フリーレントや段階賃料を導入する。通常BC工事をA工事として行う。等初期条件を抑えて借りやすくする
ただ効果があるように行わなければ効果がありません。元受け不動産屋に実力が必用です。こうした戦略は、有望テナント候補が出てきた場合の賃料交渉札としても使います。
空室が出ると、1日も早く次のテナントを決めたいのは、誰もが同じです。そこでただ不動産屋に毎日まだかまだかと催促をしても、ウザがられるだけです。必要なのは、チームとして一緒に賃貸リーシング強化に取り組む姿勢です。
賃貸リーシングの全体像は次の通りです。
賃貸リーシングはやってみなければ分からないところもあります。元受け不動産屋とPDCAサイクルを回しながら、各ポイントそれぞれに、改善箇所を見つけて、改善をしていきます。
現在であれば欠かせないのがネット対策でしょう。インターネットで自物件をエゴサーチしてみると、多くの物件紹介サイトが自物件を紹介している事がわかります。 そこで、
貸主と不動産屋との付き合い方は、慣習が大きく、誰かに教えてもらう事はないでしょう。大きくわけて次のスタイルが可能です。
貸し主であるビル資産所有者が、誰に賃貸リーシングを依頼するか?そこに決まりはありません。一般/専任/専属専任は、不動産業者側のルールです。売買の時は問題になりますが、賃貸ではさほど重要視されません。貸す側としては一般で十分です。現在のようにインターネットで物件情報が出回っていると、この不動産屋でなければリーチできない特別なテナント/物件というのは、ほとんどないからです。
とはいえ貸し主側として、実務上、Aの1の不動産屋/賃貸管理会社/仲介業者とだけ付き合う/b>のが一番楽です。だからそれでテナントが決まる間は、問題になりません。ところが不動産屋/賃貸管理会社/仲介業者は、属人的なビジネスで、経年と共に、辞めてしまわれたり、意欲が下がったり、得意領域が違ってくる事は普通にあります。そうして自物件の空室が、決まりにくくなったり、相談できなくなると、不動産屋との付き合いを見直す必要が出てくる訳です。
そこでBのように多くに依頼をすると「当たり」に出会える可能性が高まりまりリスクがヘッジできます。けれど先に述べたようにAの方が断然に楽です。もし条件変更をした場合、全部に周知をするのは大変です。またもう一つ、様々な事情から、不満は多いけれど、現在の元受けの不動産屋/賃貸管理会社/仲介業者は変えられない・・場合もあります。そうした場合、Cののように貸主が自分でターゲットテナントとリーチできそうな不動産屋や賃貸仲介業者を回って、自物件の売り込みをしても全く構いません。慣れている人なら売り込みますし、手ぶらではお願いしにくいと感じる人は、広告宣伝費1ヶ月分を特別に付けます。
ちなみに広告宣伝費1ヶ月増額をどの不動産屋/賃貸管理会社/仲介業者に出すかは、自分で決めましょう。これは「あなたと特別親しくしたい」という証です。仲介業者等から、広告宣伝費1ヶ月増額してくれたら頑張ると言われて出すものではありません。
入居テナントが決まると、賃貸借契約書を作成します。不動産屋のひな型を使う事が多いと思います。自ビルのフォーマットがあればそれを使います。
賃貸借契約書作成でまず確かめるのは、賃料その他賃貸条件ですが、賃貸借契約書はトラブル防止マニュアルです。通常条文で次の事を約束します。
例えば次のような事を、賃貸借契約書で取り決めます。
また個別の特別な約束は、特約で特記します。
更に、店舗のようにテナントが内装工事をする場合は、内装だけではなく、電気、給排水、消防設備等を含めて
工事時のABC工事区分表とともに、原状回復工事でどの状態で返還されるかも、取り決めておきます。
こうした契約内容は、覚える必要はなく、必用な場面で賃貸借契約書を思い出して確かめるだけで十分です。ただ
貸主としては、条文の約束事項が全室同じ方が、当然に楽です。だから遠慮なく書き換えを要求します。ただ契約は相手もありきだから、相手の要望がある場合は、落としどころを見つける事になります。
中小ビルでも、建物使用規則を書面で作成して、同時に交付しておく事をお勧めします。
入居テナントが減賃要請をしてくる場合があります。 ここで地域賃貸マーケット状況が良いと強気に、悪いと退去されないように・・と話をする事になりますが、経営状態が悪いと言う場合、それが改善されるのかどうか、改善計画を聞きましょう。 そして賃料を減額する場合は、減額期限を設けて、覚書を締結します。期限が到来しても難しいという場合は、改めて話合いをして、期限を延長します。入居テナントからの要請に応じて期限無しで恒久的に賃料減額をしていては、経営者失格です。
→ はじめに
→ 建物を長寿化とは、建物を負債にしない事
→ 建物を負債化させずに長く使用するための分散修繕
→ 地域賃貸マーケティングで賃貸も継続する安定ビル資産経営
→ 建物資産のアセットマネジメントと多面性
自分の予算かつ低予算低リスクの分散修繕で、現在の建物はまだ100年超長寿化できます。建替えや高額リノベーションは不要です。築30年以上中小ビル資産・一棟所有中小マンション資産のご相談はまずビルオへ。長寿化プラン、安定ビル資産経営、その他問題解決の助言・指導・支援。また古い建物が持続できる街作りに対する助言も行っています。