築30年以上中小ビル賃貸経営者/後継者向け

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はじめに:中小ビルは100年超使用する時代

 

人口激減、不動産需要激減時代に向かう現在、もはや中小ビルの建替えはあまりに高リスクです。 縮小時代、日本の中小ビルも欧州や世界同様に、無理なくメンテナンスを続ける事で、まだ現在ビルを100年以上使用、経営して利益を積み上げ資産を守る事ができます。

コンテンツ

Ⅰ 中小ビルは100年超使用する時代

1.1 人口激減、不動産需要激減時代 1.2 それでも増える再開発高層ビルの大型供給 1.3 もはや中小ビルの建て替えは無謀 1.4 ビルの本場欧州や世界の他国ではどうしているのか 1.5 日本の中小ビル資産を守る道は現在ビルを長く使用すること 1.6 ビル資産の投資思考と維持志向

Ⅱ 日本のビルが築50年程度で寿命と言われる理由

2.1 法定寿命は実寿命ではない 2.2 ビルの寿命とは何か?経済的寿命と物理的寿命 2.3 日本のビル寿命は投資思考の経済的寿命 2.4 昭和後半は需要増大の特別な投資適格時代だった 2.5 本質ではない「日本のビル寿命が短い理由」 2.6「投資思考」ではせいぜい延命しかできない

Ⅲ 欧州や他国のビルは築100年200年超でも現役である理由

3.1 欧州や他国では築100年築200年以上の中小ビルが当たり前 3.2 欧州や他国中小ビル所有者は維持思考 3.3 ビルとは土地と一体で土地の価値を実現する資産 3.4 現在ビルの維持こそ低リスクで資産を守り高利益を得る方法 3.5 自分の資産をどうするか自己責任だからビル工事は所有者が決める 3.6 必要な工事はするがお金の無駄使いをしない 3.7 古いビル維持は文化を守る事

Ⅳ 日本の中小ビルを100年以上生かす維持思考を取り入れる

4.1 日本の中小ビルを100年以上生かすために必要な事 4.2 ビルは使い続ければ資産、朽ちさせれば負債と理解する 4.3 ビルを長く使うための技術はある事を理解する 4.4 地震リスクには現実的に向き合う 4.5 経済的なビル工事取り組みを追求する 4.6 自分で考え自分で工事を判断する 4.7 街から与えられるビルの価値・ビルを適切に維持し街を維持する責任

Ⅰ中小ビルは100年超使用する時代

人口激減需要激減時代、もはや中小ビルの建替えは困難です。現在ビルを100年以上長く使用することが資産維持の唯一の道です。

1.1 人口激減、不動産需要激減時代

日本の人口は2008(平成20)年1億2,808万人 をピークに減少に転じ、2023年現在は1億2330万人、27年後2050年前後に1億人を下回り、77年後の2100年には、半減が見込まれています。少子高齢化が進行し、生産年齢人口も37年後の2060年頃には5000万人を割り戦後水準となり、更に激減します。 東京都の人口は、令和5年(2023年)1409万人で一見まだ微増を続けていますが、既に外国人を除いた日本人の人口は2年連で減少しています。外国人を含めた総人口でさえ7年後の2030年にピークを迎えた後は急減少基調となり、17年後の2040年頃に現在人口を割り、42年後の2065年に14%減少が予測されています。


人口の減少は、不動産需要の減少、街の縮小、縮小した地域の地価の低下を意味します。

1.2 それでも増える再開発高層ビルの大型供給

日本では1968(昭和43)年に都市計画法が制定され、1969(昭和44年)に都市再開発法が制定されました。ここで制定されている第一種市街地再開発のビジネスモデルが、土地を集約して高層建物を建て、高度利用によって新たに生み出された床(保留床)を処分して事業費に充てる地上げです。

これが可能だった理由は、都市再開発法が制定された時代はまだ、都市部は戦争で焼野原になり戦後復興期に建てられた木造細小住宅が密集していました。一方で日本の人口は昭和42年に1億人を突破し、昭和44年は10年で人口が10%増増えて1億0253万人。うち特に生産年齢人口の増加が69.1%の7094万人でピラミッド型。昭和35年(1960)に10年以内に実質国民総生産を倍にすると打ち出した所得倍増計画も早期に達成し、日本がイケイケの時代です。農村部から都市部への移住者も増えた時代です。だから質の良い住居・オフィスが大量に求められ、需要が激増した時代だったのです。

ところが現在は既に空き家問題が言われる通り、住宅余りです。オフィスも余ってきています。にも関わらず、「土地を集約して大きな箱物を建てれば問題は解決し、利益を得られる」という昭和と80年代バブル時代に染み付いた箱物信仰と地上げ信仰が、政治経済に染み付いてしまいました。 だから、人口は減少に向かい、経済も冴えず、アジアの近隣諸国に追い抜かれ、問題が増えるにつれ、街づくりと称して、
  • 都市再生特別措置法
  • 特定都市再生緊急整備地域指定
  • 東京都の都市再開発諸制度と言われる
  • 再開発等促進区を定める地区計画
  • 高度利用地区
  • 特定街区
  • 総合設計
  • 東京のしゃれた街並みづくり推進条例
  • マンションの建替え等の円滑化に関する法律第105条第1項に基づく都/区のマンション建替法容積率許可制度
といった、建替え地上げで容積率を緩和する政策が乱発され、人口激減基調にも関わらず東京だけでも、012年から2022年10月末までに認可された第一種市街地再開発の延べ床面積は1365万㎡とそれまでの76%、新築高層ビルの高級オフィスは既に5年で10%超新規供給が見込まれ、高層マンションも5年で30%超新規供給(資料12)が見込まれています。それも東京であれば大手町や丸の内といった従来の高級オフィス害以外にも増えているのが特徴です。

デベロッパーは、猿のように大型再開発競争がやめられないのです。

1.3 もはや中小ビルの建て替えは無謀

昭和型の容積緩和による保留床を工事代金に充てるビジネスモデルでは、街づくりといってもどこも街のごく一部の限られた区画しか、問題を解決しません。同じ地区でも対象外の中小ビルには、何ら支援も何もありません。けれども人口激減時代に大型供給が増え続けるのですから、もはや一般の中小ビルが建替えても、将来の新規需要は残っていないのです。

建設業者は、建替えがが無理ならリノベーションと言いますが、リノベーションも建替えに準じる高額工事です。不動産業者は、売却や買い替えを言いますが、どちらも現在の土地を失う事です。だからといって「朽ちるまで使う」では、朽ちた後がもう廃墟の負債です。時が経つにつれ、更に需要が激減するのです。いずれも資産を失います。

一般の中小ビル所有者は、もはやビルと土地資産を守る方法がないのでしょうか?

1. 4 ビルの本場欧州や世界の他国ではどうしているのか

ビルの本場欧州を初め、英米や日本以外の世界中の国々では、鉄筋コンクリート造中小ビルは、築50年はおろか、築100年前後もごく普通です。鉄筋コンクリート造以前の築200年築300年の古い建物が趣ある街並みを作り現役で使われている事は、欧州の街を訪れたり写真を見れば、誰でも一目瞭然でしょう。

つまり鉄筋コンクリート造中小ビルは、築50年やそこらで寿命ではなく、長く使用・経営することが可能な資産だという事です。

1.5 日本の中小ビル資産を守る道は現在ビルを長く使用すること

ビルの本場欧州を初め、英米や日本以外の世界中の国々の中小ビル所有者達はみな、戦争や経済恐慌その他あらゆる困難な時代を乗り越えて、ビル資産を維持しています。

人口激減需要激減時代、もはや建替えが困難な日本の中小ビル所有者にとっても、現在ビルを100年以上長く使用できれば、現在のビルと土地資産を低リスクで守る事ができます。どうせ100年やそこらでは、激減する人口は回復しません。

需要減少の時代、現在ビルを建て替えて新しく良い需要を多く取り込む事は大変ですが、少なくとも現在ある需要を守り続ける事は、はるかに現実的です。現在入居中のテナントが一斉に退去することは、あまりありません。そして実際世の中には、高い賃料を払って新しいビルに入りたいという大企業より、古くても手入れが良ければ賃料も割安でお得と考える中小企業の方が、よほど数は多いのです。まだ使えるビル建替えの資金があれば、他に投資をする方がよほど生産的です。

ただ現在ビルを100年以上使うという事は、ビルの本場欧州や世界では当たり前ですが、日本では「夢物語」くらいに実現性がないと考えられてきたため、もう少し日本特有の事情と、欧州中小ビル所有者達の考え方を見てみます。その前に、ビル資産の投資思考と維持思考を確かめましょう。

1.6 ビル資産の投資思考と維持志向

ビル資産の見方には、投資思考と維持思考があります。日本は「投資思考」が強く、ビルの本場欧州を初め世界各国では、「維持思考」が優勢です。

不動産投資に、「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」があるのは知っていると思います。例えば最初に費用を投資してビルと土地を購入/建設すると、その後得られる賃料収入(事業収入の場合は利益のうちのビル貢献分)が「インカムゲイン」です。より高値で売却するとその差額が「キャピタルゲイン」です。在の不動産価格は、収益還元法で取得後の「インカム」とその期待利回りで決まりますから、経営成績をよくすると、売却価格も上がります。また不動産価格は、相場の波でも上下します。

ビル(に限らず全ての不動産に対してですが)をこうした「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」で考えるのが、ビルの投資思考です。投資思考の人は投資のEXIT(出口)を考えます。 一方で、所有している土地にビルを建てたり、資産として購入したりした後は、低リスクの安定した収益資産として「インカムゲイン」をずっと得られれば良いと考える人も大勢います。売却はよほどの事がない限り考えません。こちらはビルの「維持思考」と呼びます。

最初のビル建築/ビル購入は投資思考です。その後に「投資思考」と「維持思考」の2つに分かれるのです。そこで日本は「投資思考」が強く、ビルの本場欧州を初め世界各国では、「維持思考」が優勢です。


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Ⅱ 日本のビルが築50年程度で寿命と言われる理由

日本では、古い建物にお金をかけるのは無駄という投資思考の投資判断で、ビルが寿命にされています。

2.1 法定寿命は実寿命ではない

日本でビルが築50年前後で寿命と言われる理由に、都市再開発法第一条の三では、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造(以下鉄筋コンクリート造等という。)のビルの耐用年数を50年、住宅を47年、飲食店等を41年ホテルを39年と定めています。また税法では、減価償却計算の根拠として、鉄筋コンクリート造(RC)が47年、鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC)が60年と定めています。

けれど実際のコンクリート寿命は、製造の品質及び製造時の手抜きの有無によって大きく左右されるものです。コンクリートの劣化には、中性化、塩害、アルカリシリカ反応、凍結の4つがあり、いずれも環境によるものですが、現在ではコンクリートの劣化対策技術があります。また通常のビルでは外壁を塗装やタイルで保護されていますから、これらを適時補修や再塗装を繰り返す事で、そもそもコンクリートの劣化を防ぐ事ができます。

適切なメンテナンスでまだ100年以上使えるビル資産を、税法や都市再開発法で寿命だから、もう壊すというのは、ばかげた話だと主ませんか。

2.2 ビルの寿命とは何か?経済的寿命と物理的寿命

実は重大でありながら、日本では深く考えられていないのが、ビル寿命とは何か、です。

ビルの電気や給排水等の基本インフラ機能が使用できなくなり、壁も崩れそうで安全も怪しい廃ビルになれば、誰がみても物理的寿命です。けれども日本では多くのビルはそのような状態になる前に「寿命」が言われます。

日本でビルが寿命と言う場合、多くは「経済的寿命」です。ビルの経済的寿命とは、ビルの使用維持に必要な工事費用を捻出できない場合、もしくはこの古いビルに、維持に必要な工事資金を投下する価値がないと考え、ビルの使用維持に必要な工事費用を出さない事を判断されたビルを言います。判断するのは、もちろんビル所有者です。


2.3 日本のビル寿命は投資思考で経済的寿命

日本でビルが寿命と言う場合のほとんどは、経済的寿命です。理由は、投資思考だからです。

ビルが築50年前後になり高額な修繕が必要になると、
  • この古い建物に、高額のリノベーション/設備改修費をかけるくらいなら、新しいビルに建替えた方がお得
  • この古い建物に、高額のリノベーション/設備改修費をかけるくらいなら、売却した方が損しない
  • この古い建物に、高額のリノベーション/設備改修費をかけるより、再開発の方がお得
  • この古い建物に、高額のリノベーション/設備改修費をかけるのは、無駄だから朽ちるに任せる

投資判断として、修繕をすればまだ使えるビルを経済的寿命にしています

2.4 昭和後半は需要増大の特別な投資適格時代だった

都市再開発法制定により日本で土地を集約して高層建物を建て、高度利用によって新たに生み出された床(保留床)を処分して事業費に充てる地上げ型ビジネスモデルが出来た1969(昭和44年)の時代背景は、既にご説明をした通りです。

戦後のベビーブーマーが生産年齢に入り、人口激増、経済急成長、農村部から都市部への移住、生活に余裕が出来た事で終戦直後に建てられた木造細小住宅から、質の良い鉄筋コンクリート造/鉄筋鉄骨コンクリート造ビル・マンションへの需要が急増し、80年代バブルへと至り、例え市街地再開発の該当地でなくても、市街地で住居兼店舗地や所有地にビルを建てれば、増えた床を貸しビルとして賃料収入を得る事ができました。

こうした時代であれば、ビルを建てて40年50年もすれば、需要が更に増加していますから、「古いビルの修繕にお金をかけるより、壊して大きなビルに建替えた方がお得」という地上げ型思考が、個々のビルで成立したのです。

2.5 本質ではない「日本のビル寿命が短い理由」

「古いビルの修繕にお金をかけるより、壊して大きなビルに建替えた方がお得」とは、需要激増投資適格時代だけに通用する贅沢です。ところがビルを建てる事が利益のデベロッパーや建設業界、お金を貸してナンボの建設業界、新しいビルの方が売買も賃貸も利益になる不動産業界、動く事で仕事発生する弁護士税理士等、いずれの業界も「投資」が利益です。一度「新築投資」をしたから後は「維持思考」 では仕事になりません。いきおいビルが築40年築50年になると、「寿命だから建替えを」の大合唱で「投資思考」をあおります。 「皆が言っている」が判断基準になりがちだの日本人は、例えば「世界の中で日本だけビル寿命が短い」という事実に対しても、独自の理屈をつけて更に「ビルは築50年で寿命」の刷り込みを強めます。
日本は木造建築文化だから これは違います。日本にも世界最古の木造建造物、奈良の法隆寺を始め、寺社城豪邸等築数百年の建物は多数あります。欧州でも一般の街の古い建物は木の梁で歪みます。また石造建物も、冬は石の間に入った水が毎晩凍結して石を削ります。それでも手入れをするから維持できています。
日本は地震国だから これも決定理由として言われがちですが、巨大地震は環太平洋諸国共通の問題です。地震国は日本だけではありません。そして震災国では厳しい建築基準法があり、耐震対策のために建築コストも高いのです。50年に一度大地震に被災するメキシコ市でも地震国だからビルが築50年寿命とは誰も言いません。  
旧耐震基準建築だから  旧耐震基準建築全てのビルで耐震性がない訳ではりません。弱い部分がある場合でも、方向や一部に限定される場合がほとんどです。また倒壊以外の震災時災害である天井落下や窓ガラス・外壁・看板落下等事故は、旧耐震基準建築/新耐震基準建築といった躯体耐震性の問題ではなく、ビル維持管理の問題です。
コンクリート寿命だから 他国と比べて日本のコンクリート品質はそんなに悪いでしょうか? 確かに鉄筋コンクリートは経年劣化しますが、一般ビルのコンクリート躯体は塗装・タイルなどで保護されています。直射日光に晒されないので劣化はそう進行しません。
設備更新がしやすい設計ではないから ビルの寿命とは全く関係ありません。工夫次第で設備更新はできます。欧州の築数百年のビルの竣工時には電気も上下水道もなかったため後付けです。そのために建替えとは誰もいいません。
賃貸が悪化するから これもビルの寿命とは全く関係がありません。確かに新築は新築プレミアム付き高額賃料でもテナントに選ばれますが、手入れが良い割安賃料の築古物件を好む人は大勢います。
いずれも本質ではありません。

2.6「投資思考」ではせいぜい延命しかできない

最近は日本でも現在の所有ビルを大切に長く使いたいと考える人が増えてきました。建設業界が建替えの代替えとして営業する「リノベーション」「大規模設備改修工事」はやはり高額投資だから選択せず、自分で各工事に取り組む方も増えてきています。ただ今までの「投資思考」時代の考え方では、相変わらず経済的寿命・物理的寿命に陥るリスクが高いままです。せいぜい延命しかできないでしょう。

理由は、日本では当たり前として口にされる「ビルの事は専門で分からないから、専門業者、専門家に教えてもらう」「〇〇業者の知り合いがいるから大丈夫」「(専門分野の大手)〇〇会社出身の社員がいるから大丈夫」という言葉です。

ビルが古くなり問題が増えても、問題解決を各専門業者/専門家に頼る限り、専門業者/専門家がいう金額を支払えなくなれば、ビルは経済的寿命に陥ります。各専門業者/専門家は各専門問題解決のプロフェッショナルですが、ビル全体の経営及び資産維持の観点からの判断はできません。(責任も持てません。)

昭和の依存体質の反動で、平成時代のビルの工事は「相見積り」で安い業者を選ぶ。手法が流行しましたが、中身を見ないで数字だけ見ていては、安かろう悪かろうにしかならないのは当然です。 相見積もりをすると、優良業者に仕事をしてもらえなくなります。

そうして投資思考では、何か難しい問題が発生すると、すぐに「このビルは寿命だ」とあきらめてしまいます。これでは無理です。



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Ⅲ 欧州や他国のビルは築100年200年超でも現役である理由

ビルの本場欧州や世界中の中小ビル所有者は、維持思考だからビルの寿命を考えません。低リスクで数百年でも利益を積み上げます。

33.1 欧州や他国では築100年築200年以上の中小ビルが当たり前

ビルの本場欧州や世界中の中小ビルはビルが築50年はもとより築100年築200年過ぎでも使用・経営ができています。鉄筋コンクリート以前の築300年400年ビルもあります。

日本の建築技術が劣っている訳はありません。100年前や数百年前と比べるとなおさらです。英国や欧州の古いビルの中には、傾いているものもありますが、工夫して使用されています。 日本人は日本は地震国だから、木造建築文化だから無理と言いたがりますが、世界の中で地震国は日本だけではありません。メキシコ市のように50年に一度大震災に被災する街もあります。木造建造物文化もアジア共通です。けれどもアジアでもアフリカでも他の国ではビルが築50年で寿命とは言いません。

3.2 欧州や他国中小ビル所有者は維持思考

なぜビルの本場欧州や世界中の中小ビルは、築100年築200年でも寿命にならないのか?

その理由は、一般の中小ビル所有者が、維持思考だからです。

ビルとは、丈夫な躯体を生かして、建物設備機能や内装等の更新を繰り返しながら、長く使うことができる、特別な価値がある資産と考えています。

一般の中小ビル所有者は、ビルの寿命を考えず、ビルを維持して長く使う事だけを考えるから、問題があってもなんとか解決して、維持を続けます。 もちろん時にビルの解体や再開発がありますが、それは行政や大資本家が行うものと考えます。

3.3ビルとは土地と一体で土地の価値を実現する資産

日本では長年土地に価値があると考える「土地信仰」が続きましたが、現在では、日本でも市街地の土地の価値は、その上に建つビルの収益性で評価(収益還元法)されます。

欧州等では、市街地の土地は、土地の上のビル等が利益を産む事に、価値を見ます。だから 土地の価値は、その上で使用収益して利益を生む事で生まれる物と認識して、主体はビルの方に見ます。 だから、ビルを維持することが、土地を含めた資産価値を守り、資産を守る事という価値観で、資産と利益を守るために、ビルを維持するのです。

3.4 現在ビルの維持こそ低リスクで資産を守り高利益を得る方法

長期に経済や社会が成長を続けない限り、建替えは失敗すれば資産を失う行為です。一時的な成長では、建替えを決めて建替えビルが竣工した頃に経済悪化してビル需要が無くなれば、様々なトラブルが発生し、借入金返済負担が重くなり、資産を失う事態になります。80年代バブル直後やリーマンショック後に見られた通りです。

けれども現在ビルを無理のない低予算で維持し、安定した利益を維持できれば、何もそんなリスクを負ってまで建替えを選択する理由はどこにもないではないですか。

安定利益が100年200年数百年と積み重ねれば、その価値は膨大です。だから英国や欧州の王室や貴族はあれだけ富裕なのです。


3.5 自分の資産をどうするか自己責任だからビル工事は所有者が決める

古いビル維持に、どうしてもビルの工事は欠かせません。工事の内容も、外壁の補修/再塗装から、建物設備のリニューアル、内装リニューアル等様々です。

欧州や他国では富裕であっても、工事内容を業者にお任せという事はあり得ません自分の資産をどうするかは自己責任だから、ビル所有者が考えてビルに必要な工事を決めます。

ビルの工事とは、ビルの将来を決める工事です。ビルに何の工事が必要かは、今後ビルをどう使用したいかでも違ってきます。そしてビルを無理なく維持続けるためには、ビル所有者は自ビル予算の中でやりくりしなければいけないからです。

各工事業者は、各専門分野のベストはアドバイスできますが、ビル全体にいくらの費用をかけて、どう維持するかは、工事業者ではなくビル資産所有者が決める事です。

3.6 必要な工事はするがお金の無駄使いをしない

欧州の資産家はケチだという話を聞いた事があると思います。 実際「必要な工事は行うけれど、無駄な工事はしない。」姿勢が徹底しています。かなりの資産家でも多少の工事はDIYで自分でやる人が少なくありません。

資産家と成金とは違うのです。資産家はお金を使わなくても、資産家として自信があります。そして、自らの富裕の源である資産を守る事を第一に考えます。ビル資産維持には、一定の工事費用投資が必要だから、無駄使いをしていたら経済的寿命になるとわかっているのです。

3.7 古いビル維持は文化を守る事

欧州の古いビルが建ち並ぶ旧市街で、一棟だけ好き勝手にリノベーションをする事は見かけません。街並みを守ります。

誰もが素敵と感じる街並みこそが街の誇れる資産であり、街の魅力を壊せば自ビルの資産価値も下がる事がわかっているからです。古い街並みの古い建物の維持はやはりお金も手間もかかりますが、それでも所有者たちは、自己責任で自ビルを維持して街なみを守ります。

古いビルとは、そのビルを新築することができた投資時代の良い記憶と文化を残す存在です。文化は古くなるほど価値が出るのです。だから古いビルの所有は誇りなのです。


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Ⅳ日本の中小ビルを100年以上生かす必要な事

維持思考の分散修繕/安定ビル経営で自分で考え自分で工事を判断すれば、経済的に無理なくビルの維持に必要な工事を行い、現在のビルはまだ100年以上使用・経営ができます。

4.1 日本の中小ビルを100年以上生かすために必要な事

ここまでで明らかなように、日本の中小ビルも技術的には問題なく、適切にメンテナンスを続ける事でビルの本場欧米や他国同様に100年以上使用できます。

その実現のために必要な事は、技術や制度の問題ではなく、中小ビル資産所有者が、投資思考から維持思考に切り替えて、ビルを無理なく維持するマインドセットと方法論を手に入れる事だけです。 ビルを長く使用するために必要なのは、所有者が変わる事なのです。

4.2 ビルは使い続ければ資産、朽ちさせれば負債と理解する

ビルとは、丈夫な躯体を生かして、建物設備機能や内装等の更新を繰り返しながら、長く使うことができる、特別な価値がある資産
  です。

投資思考では、資産価値ある土地にビルを建てれば利益が得られると考えますが、維持思考では、現在のビルを適切にメンテナンスして使用・経営を継続し利益を得続ける限り、そのビルと土地は資産価値があると考えます。需要が増加しない人口激減時代には、その土地にどんなに(元は)資産価値があっても、ビルがメンテナンスされず内装等が朽ちてスラム化・廃墟化すれば、そのビルと土地には資産価値がなくなり、ビルは負債化です。 現在のビルを資産として生かすか、負債にするか、ビル所有者の考え方次第なのです。

4.3 ビルを長く使うための技術はある事を理解する

現在では、鉄筋コンクリートの劣化を回復する技術は十分にあります。

そもそも一般のビルは外壁を塗装・タイルで覆われているので、早々にコンクリートは劣化しません。塗装・タイルは経年劣化しますが、これは何度でも修繕やリニューアルができます。

旧耐震基準建築ビルでは、耐震補強技術があります。通常耐震不安があるとしても一部です。だから部分補強で十分な場合がほとんどです。

ビルの建物設 備も、全て個別にリニューアルができます。時々給排水管のパイプスペースが狭いから無理といった声も聞きますが、そうすれば外壁に設置すればよいだけです。建物設備は時代に合わせて、追加/廃止ができます。

4.4 地震リスクには現実的に向き合う

それでも旧耐震基準建築ビルだから難しい、とおっしゃる方もいるかもしれません。

大切な事は自ビルのリスクを現実的に評価することです。


日本は地震国ですが、日本全国一律にビルが倒壊するような激震地になる恐れが常にある訳ではありません。また旧耐震基準建築だからといって、全てが震度7で倒壊リスクがある訳ではありません。ビルが頑丈な場合もあれば、地盤の硬さも関係します。ビルが密集している市街地であれば、そもそも大きく揺れません。また耐震不安があるビルの場合でも、多くは部分的なもので、部分補強で済みます。

日本は地震国だからこそ、自分の資産を守るために、冷静に地震と付き合う考えが必要です。

4.5 経済的なビル工事取り組みを追求する

ビル及び建物設備の工事代金は、材料費、人足に加えて多くの中間費用が発生します。

もちろん一般の中小ビル所有者は、職人さんに工事を指示できませんから、ある程度中間で工事を取りまとめてくれる人が必要です。

た だこれをどの水準まで求めるか、はビル所有者が決めていることです。

建設業者のリノベーションやだ規模設備改修工事は、建設業者が全て考えて決めてくれるから楽で安心ですが、高額投資です。

例えば商業施設のように、ビルでも集客するビジネスモデルでは、お金をかけてその時々の空気に合った内装や雰囲気に変えて話題にする必要がありますが、一般の中小ビルはそこまでの集客は必要ないわけです。

それより、ビル維持に必要な工事を経済的に行う方法を追求して、経済合理性を求めるべきです。ただ、ただの「ケチ」では、ビルの状態が悪化して、スラム化・廃墟化への道へと陥ります。

必要なのは、です。これはビルの本場欧州や世界の他国では経験的に確立しています。

日本向けには、
中小ビルを寿命にしない維持思考の分散修繕


維持思考の利益永続の安定ビル経営



としてご紹介しています。

4.6 自分で考え自分で工事を判断する

日本の中小ビル所有者が、ビルの本場欧州や世界の他国では一般的な
ビルを寿命にしない維持思考の分散修繕
利益永続の安定ビル経営
に取り組むにあたっては、「自分の資産は自分で守る。自分の資産の事は自分で考え、自分で工事を判断する。」という自立した思考を育てる必要があります。

日本は、昭和の「ビルの問題は建設業者、不動産屋、専門家に相談する」(そして解決してもらう)という依存を誘発する広告宣伝が盛んでしたから、「自分で考え、工事を判断する」思考は意識的に育てる必要があります。しかも、自分の都合だけを言っては良い工事業者は相手にしてもらえませんから、自分のビル経営方針をわかりやすく説明して、良い工事業者に納得してもらえるビル所有者/経営者になれるように、自己育成が必要です。こちらは
7つのビル資産維持力


でご紹介してます。またビルオでは、築30年中小ビル経営者・後継者の自己成長をお手伝いしています。

4.7 街から与えられるビルの価値・ビルを適切に維持し街を維持する責任

市街地の全ての中小ビル資産所有者が意識すべきは、現在のビルの資産価値は、自分が作ったものではなく、街から与えられているものだという事です。街に魅力があり人がいるからそこに不動産需要があるのです。

人口激減時代は、全ての街にとって縮小と生き残りの時代です。日本ではそこに大型再開発による高層ビルの大型供給が続いていますから、再開発地区以外の生き残りは更に厳しくなっています。 街に状態の悪いスラム化・廃墟化したビルが増えれば、街は魅力を失い、人をひきつけなくなり、その街のビル所有者が個々で努力しても、やはり資産価値が下がってしまいます。

だから街の中小ビル所有者にとって、自ビルを適切にメンテナンスして状態を保つ事は、自ビル資産を守る事であり、自ビルの資産価値を与えてくれる街を守る事でもあります。ただ街を守る方は一棟の努力だけではできませんから、どのように築年数を経たビルが建ちならんでいても、成熟した自分の街の魅力を保つか、街として近隣と一緒に考える事もお勧めします。参考例は、欧州にいけば、たくさんあります。


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